恋は手のひらの上で
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ロビーを抜けてエントランスに出た。
午後の光がガラス越しに落ちている。

午前から続いた会議のあとでも、昼すぎの光はまだ強かった。

外は少し風が強い。
緩やかな彼の髪がふわっと揺れる。
同時に私の髪も流れ、手で押さえた。


「今日はありがとうございました。過去イチ楽しかったです」

椎名さんが珍しく楽しげに言うので、私は少し驚きながらも「そうですか?」と聞き返した。

「西野さん、攻めましたね」

「…はい。攻めちゃいました」

それは認めるしかなくて、肩をすくめた。


駐車場まではまだ少し距離がある。
私は思い出して、バッグから缶コーヒーを取り出した。

ブラックで合っているかどうかは不安だったが。
さっき自販機で買ったばかりなので、ひんやりと冷たい。

「帰りの車で、飲んでください」

「…覚えてたんですか」

少しだけ目を見開いた椎名さんが缶コーヒーを受け取ってくれた。
はい、とうなずく。

「初回の打ち合わせで、会議後はカフェインが欲しくなるって言ってましたよね」

あの時は、ただの雑談だった。
でも私は覚えていた。
緊張だらけで怖かったあの日、あの時のふとした雑談が嬉しかった。

それだけのきっかけだったけれど、この人はただ淡々としているわけじゃないんだと分かった瞬間でもあったからだ。

「記憶力いいですね」

「大事なことは、ちゃんと覚えてますよ」

言いながら、自分で少し照れてしまった。
あまりにも直接的な言い回しになってしまったかも、と言い回しを変えるべきだったかとも思う。

でも、撤回はしたくなかった。


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