恋は手のひらの上で
ノズルから一定量ずつ、規則的に落ちるジェル。
ラインは滑らか。
作業員の動きも迷いがない。

「粘度、五千六百です」

「想定誤差内ですね」

主任と高橋の会話は業務連絡のように、当たり前の響きを持っている。
止まった釜から、主任が慣れた手つきでサンプルを小さな容器に取り、持ってきてくれた。

手渡された容器を、私は指先でつまんで持ち上げる。

「見た目も、いいんじゃないか?」

高橋がすぐ隣で一緒に覗き込みながら、確認するように肩に手を乗せた。

確かに、透明度も高い。気泡も少ない。

「順調だな」

“順調”その言葉が私の心を救ってくれる。

「粘度は目標値内で作ったものです」

私はうなずき、

「ここで開けて確認してもいいですか?」

と主任に尋ねると、もちろん、と返ってきた。


椎名さんが興味深げに私たちより少し離れたところから首をかしげる。

「最終確認は触感なんですね」

「はい。数字も大事ですが、やっぱり最後は肌に触れた時なので」

手袋越しに少量を取った。
指先で軽く伸ばす。

その瞬間。

─────違う。

数値は問題ないはずなのに、わずかに重たい。

伸びは同じ。艶もある。けれど、指の腹に残る“引き”が、ほんの少しだけ強い。

ほんのわずか。
気のせいだと言われれば、それまでの差。

私はもう一度、同じ量を取って確かめる。
やっぱり、違う気がする。


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