恋は手のひらの上で
「ねぇ高橋。ちょっと違うの。テクスチャーが少し重いよ」

すぐに高橋に訴えたものの、彼はあまり動じていない。
冷静に資料を見て、工場内の状況を確認していた。

「数値は正常なんだけどな。さっきも言ったけど、これは想定誤差内だよ」

彼が言いたいことは分かる。
でも、納得がいかない私は静かに自分のバッグを握り直した。

「…基準サンプルと比べさせてくれる?」

バッグから小さな遮光容器を取り出したら、主任が少し驚いた顔を見せた。

椎名さんがすぐにこちらへ近づき、

「西野さん、バッグ持ってます。比較の邪魔でしょう」

と申し出てくれたので、お願いします、と彼にバッグを渡した。

両手が空いた状態で、左右の手に、それぞれ同量のジェルをのせる。

そしてゆっくり伸ばした。
片方は、すっと消える。
もう片方は、わずかに“とどまる”。

時間にすれば、ほんの一秒の差。
でも朝用ジェルなら、その一秒が致命的。
微かな引っかかりが、私にはどうしても納得いかなかった。


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