恋は手のひらの上で
あまりにも早い行動。
私が返事をしたかしないかくらいの頃には、もう椎名さんは電話の向こうの相手と話していた。

呆然とする私の後ろで、高橋がため息をつく。

「…なんなんだよ、これで嫌なやつだったら、文句のひとつでも言えるのに」


思わず高橋を振り返ると、彼は私から目を逸らした。

「上には俺から報告するよ。説明も俺からの方がいいと思うし。西野は…明日の会議のために、資料をまとめておいてほしい」

「…うん」


都内での最終承認会議が午後になるとしても。
たしかに資料整理もある。

でも、ここはどうする?
このままにしていいのだろうか?

「原因は必ず、俺が今日中に見る。分かり次第、連絡入れるようにするから」

私の心の声が聞こえたみたいに高橋はそう言うと、電話を終えた椎名さんに気づいて会釈した。
椎名さんはスマホをしまいながらにこりと笑った。

「とりあえずいったんこちらは連絡入れたので。調整が入ります。時間は追って、また」

「お手数おかけします。そして─────椎名さん。重ね重ねすみませんが…」

高橋が少しだけためらうのが分かった。
言葉を飲み込み、そして、顔を上げる。


「西野を、送っていただけませんか」

思いもよらない彼のお願いに、私は「ちょっと待ってよ」と思わず遮った。

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