恋は手のひらの上で
「会議を明日の午後にずらすなら、私も今日はここにいる!原因が分かるまで私も─────」

「だめだ、冷静になれって」

高橋の手がぎゅっと結ばれているのを見て、彼の意識はまた違うところにあるのも察した。

「俺が原因を必ず見つける。西野は、明日は万全な状態で会議に出てほしい。二人でここに残って、原因が分かったとしても、明日もしも共倒れしたら意味がない」


悔しい。でも理屈は完璧。
私と高橋が逆の立場でも、私も同じことを言ったと思う。

黙ったまま答えないでいたら、椎名さんがふっと笑った。

「俺はどちらでもいいですよ。決めるのは西野さんです」

決めるのは、私。
差し込む夕日がまぶしくて、目の奥に“ためらい”を生む。


高橋が痺れを切らして、私の腕を掴んだ。
その力は、極めて弱い。

「原因は必ず、俺が見つける。責任もって、必ず」

「会議の資料は会社じゃなくても作れる」

食い下がろうとした時、椎名さんが息をついた。


「じゃあ、こうしましょう。西野さんが高橋さんを信頼してるなら、俺と一緒に帰りましょう」


はたと私と高橋の会話が途切れる。
私たちの反応を見て、彼はその場の空気とは違うやわらかい笑みを浮かべた。

「言い方や考え方を変えたら、おのずとどうしたらベストなのか見えてきます」

「…理詰めっすか」

高橋は気が抜けたような顔をした。

「いえ、たぶんこれは、感情論です」

と、椎名さんは前置きして、私たち二人を見やる。

「高橋さんがこれだけ言ってくれてるんだから、西野さんもそれに応えてあげるべきなんじゃないかなと思っただけです」

“西野は、明日は万全な状態で会議に出てほしい。”
高橋はそう言ってくれた。

その言葉への、私の信頼のことを指している。


「…高橋。……あとは頼むね」

私はもう、前を向くしかない。
いつの間にか、高橋の手は私から離れていた。

高橋も小さくうなずいた。
そして、彼は椎名さんに向き直ると

「じゃあ、すみませんがお願いします」

と頭を下げ、思い出したようにつけ加えた。


「あっ、椎名さん。こいつ、助手席だとなかなか寝ないんで。話し相手になってやってください」

「ちょっと!」

パシン!という高橋の肩を叩く音が響いてしまった。




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