恋は手のひらの上で
「西野さん。あなたは、会うたびにいつも違う顔を覗かせてくるので、正直どれが本当の西野さんなのか分からなくなります」

不意に話しかけられた話題が、私のことだったので驚いて身体を起こす。

「えっ?」

「最初は緊張と怯えが見え隠れして、おそるおそる、意見を言う。頼りないというより、慣れてない感じ」

淡々と話す彼の横顔は、まるで仕事の話をしているようだった。

「でも、会うたびに、少しずつ強くなっていって。俺は毎回、別人に会ってるのかと思うくらいです」

「そんなにパンチは繰り出してない…はずです」

「あぁ、その表現、ぴったりだ」

椎名さんはここでフッと楽しそうに笑った。

「一秒にこだわるあの瞬間は、強烈でした」


一秒だけのごくわずかな誤差。
すべてを止めた、今日のあの時の自分を思い出す。

「ふとした瞬間に見せる、その強さはどこから来るんでしょうね?」

あまりにも普通に彼が話してくるので、私もだんだん緊張がほどける。

高橋にはそんなことは言われたことなんてもちろんないが、同期の紗英に言われた言葉が思い出された。

「同期の一人には…“クソ真面目”って言われました」

私にとっては不本意な言葉だったけれど、椎名さんにはど真ん中だったらしい。
それだ!と笑っていた。

「その表現、分かる気がします」

「私はその言葉、いやです!」

「ぴったりですよ」

「椎名さんまでそんなこと言うんですか…」


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