恋は手のひらの上で
はぁ、とため息をついていたら、彼はなにかを思い出したように
「いいこと、教えてあげましょうか」
とちらりと横目で視線を送ってきた。

「はい。なんですか」

「西野さん、うちの会社でちょっとした時の人です」

「私が?東央ヘルスケアで?」

「営業部なんかは、もう」

「どういう意味ですか?」

「高嶺の花」


─────頭が痛くなった。


「俺が二時間もこうして同じ車であなたを送っていったなんて言ったら、なんて言われるだろう」

「言わなくていいです」

「でも、明日、うちの会社に来ますよね」

「なんで今日、そんなに意地悪なんですか!」

隣にいるのに、目があまり合わないことが唯一の救いかもしれない。


「まあ、意外とみんな見てますよ。ちゃんと、西野さんのことは。一生懸命さとか、頑張ってるのとか」

「はい─────。でも、明日…ちょっと行くの嫌になりました」


頭が痛くなってきたのは、本当。
今日のところは、キャパオーバーだ。

まぶたが少しずつ重くなる。

「椎名さん」

「はい」

「ごめんなさい。電池が切れそうです」

自己申告したら、彼は前を見たまま

「どうぞ。寝てください。おやすみ」

と言うのが聞こえた。
そのまま、私の意識は途絶えた。



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