恋は手のひらの上で
赤信号で車が止まった。
その時、ようやく茶色の瞳が一瞬こちらを向く。
確かめるみたいに。
「高速で一回だけ休憩したんですけど、起きなかったので。大丈夫ですか」
彼はすぐ前を見てしまった。
何もなかった顔。
何もなかった、はずだけど、確実に私の寝顔は見ている。
「口を開けてヨダレを垂らしている姿を、皆さんに見せて回らないと約束してください」
「あはは、なんですか、それ」
「約束してください」
「はい。分かりました。俺だけの記憶にとどめます」
「それはそれでつらいです…」
墓穴を掘ってしまった、と赤面する。
暗くて私の顔色なんて見えないだろうということが、ありがたい夜。
見慣れたビルの輪郭。
コンビニの明かり。
渋滞の赤いテールランプ。
さっきまでの工場の匂いが、もう遠い。
「椎名さんって、ちゃんと寝てます?」
自分でも唐突だと思う。
ハンドルを握る横顔が、少しだけこちらを向く。
その顔はちょっと驚いているようなものだった。
「え?寝てますよ、もちろん」
「本当ですか?」
「もしかして、疑われてます?」
少しだけ笑っている声。
あまり気にしていなかったけれど、途中から飾らない笑い方をしてくれるようになった。
私は窓の外を見ながら言う。
「前に、朝の七時過ぎにメールの返信来ました」
一瞬、間が空いたあとで「ああ」と覚えている温度の声が聞こえた。
「出勤前に送ったような」
「それ、早いです。時間外労働ですよ」
「西野さんは、もっと早い時間に送ってきていましたよ」
その時、ようやく茶色の瞳が一瞬こちらを向く。
確かめるみたいに。
「高速で一回だけ休憩したんですけど、起きなかったので。大丈夫ですか」
彼はすぐ前を見てしまった。
何もなかった顔。
何もなかった、はずだけど、確実に私の寝顔は見ている。
「口を開けてヨダレを垂らしている姿を、皆さんに見せて回らないと約束してください」
「あはは、なんですか、それ」
「約束してください」
「はい。分かりました。俺だけの記憶にとどめます」
「それはそれでつらいです…」
墓穴を掘ってしまった、と赤面する。
暗くて私の顔色なんて見えないだろうということが、ありがたい夜。
見慣れたビルの輪郭。
コンビニの明かり。
渋滞の赤いテールランプ。
さっきまでの工場の匂いが、もう遠い。
「椎名さんって、ちゃんと寝てます?」
自分でも唐突だと思う。
ハンドルを握る横顔が、少しだけこちらを向く。
その顔はちょっと驚いているようなものだった。
「え?寝てますよ、もちろん」
「本当ですか?」
「もしかして、疑われてます?」
少しだけ笑っている声。
あまり気にしていなかったけれど、途中から飾らない笑い方をしてくれるようになった。
私は窓の外を見ながら言う。
「前に、朝の七時過ぎにメールの返信来ました」
一瞬、間が空いたあとで「ああ」と覚えている温度の声が聞こえた。
「出勤前に送ったような」
「それ、早いです。時間外労働ですよ」
「西野さんは、もっと早い時間に送ってきていましたよ」