恋は手のひらの上で
やがて医療統括責任者が「なるほど」と、ゆっくりうなずく。

「的確な回答も得られたし、不安点がない。合理的だ」

資料が閉じられる。

「どうだろうか。本件を承認したい。異議がある者は、ここで申し出てほしい」

想定では、ここで何人か手を挙げるのではないかと思って構えていた。
反対意見への答えも、すべて頭に用意していた。

だがしかし、誰も手を挙げなかった。

「よし、」と満足げな声がパラパラと聞こえ始める。

途端に空気が緩んだ。

「正式に承認とする」


その言葉で、私はようやく息を吐いた。
指先が少し冷たい。

背筋を伸ばしたまま、心の奥でだけ膝が震えた。


顔を上げる。
終盤。椎名さんと、もう一度目が合う。

今度はほんの少し長い。

言葉は、物理的にも遠すぎて、なにもない。
でも分かる。

一緒に、盾を作った。
その事実だけが胸に刻まれた。


「本日は、お時間を頂戴しありがとうございました」

椎名さんの声で、静かに会議を閉じた。



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