恋は手のひらの上で
なにかを言おうとしているように見えたので、私は少しだけ首をかしげた。

「どうかしたんですか?」

「西野さん」

名前を呼ばれる。
仕事の続きみたいな声色で、でもどこか違う。

「はい」と、返事をすると、椎名さんは一瞬まわりを見回した。
その視線の意味が、まだ分からない。

「ひとつ、個人的にお聞きしてもよろしいですか」

その声の温度が、さっきよりわずかに低い。

もしかして、なにか重大なミスをしてしまったのか。
気づいていないだけで。

嫌な予感がよぎってしまい、私は思わず彼のそばに近づいた。

「…はい」

声が震えてしまった。

彼は大丈夫じゃなさそうな顔をしている。
まっすぐこちらを見ていた。


「お酒はお好きですか?」

─────は?

脳が止まる。
え、いま?ここで?
承認会議の直後に?
なんでアルコール?

頭の中で疑問符が花火みたいに散る。


私はじぃっと椎名さんを見つめるも、彼も全然逸らさない。

「………え?」

やっと、聞き返す声が出た。

「お酒は、お好きですか?」

「いや、聞こえてます」

「じゃあなんで聞き返したんですか」

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