白ねこのココと、あまい森のひみつ

第二章 もふもふカフェ開店

クッキーの成功に気をよくした私は、次々と新しいお菓子を開発した。
森で見つけた様々な植物を研究し、材料として利用する。チョコレートに似た風味の樹液、マシュマロのような食感のキノコ、フルーツタルトに使える甘酸っぱい果実。
この世界には、お菓子作りに適した素材が豊富にあった。ただ、誰もそれを「お菓子」として活用する発想がなかっただけだ。
「ココ、これを見て」
ある日、エリザベート嬢が一通の手紙を持ってきた。
「王都からよ。王女殿下が、あなたの作ったお菓子を召し上がりたいとおっしゃっているの」
「王女様が!?」
「ええ。わたくしが城でのお茶会にお菓子を持参したら、大評判になったのよ。それで、殿下が直々に」
これは大チャンスだ。王族に認められれば、お菓子作りが正式な職業として認知される可能性がある。
「行きます。絶対に行きます」
一週間後、私たちは王都へ向かった。馬車での三日間の旅。道中、私は新しいお菓子のレシピを考え続けた。
王都は、この街の十倍は大きかった。城は街の中心にそびえ立ち、その威容に圧倒される。
謁見の間で、私たちは王女を待った。
「お待たせしました」
現れたのは、十五歳ほどの少女だった。プラチナブロンドの髪、透き通るような肌、深い青の瞳。絵本から抜け出してきたようなお姫様だ。
「あなたがココね。噂のケットシーのお菓子職人」
「はい、恐れ入ります」
「早速だけど、あなたの作ったお菓子を食べたいわ。エリザベートから聞いて以来、ずっと気になっていたの」
私は用意してきたお菓子を並べた。クッキー、マカロン、タルト、プリン、シュークリーム。可能な限り多くの種類を用意してきた。
王女は一つ一つ丁寧に味わい、そのたびに笑顔を見せた。
「美味しい……こんなに幸せな気持ちになる食べ物、初めて」
「ありがとうございます」
「ココ、あなたに頼みがあるの。この王都に、お菓子の店を開いてくれないかしら」
「お店……ですか?」
「ええ。お菓子は人を幸せにする力がある。それを、一部の貴族だけでなく、すべての人に味わってほしいの。もちろん、資金は王家が援助するわ」
こうして、私は王都で「もふもふカフェ」を開店することになった。
店の場所は、王城近くの一等地。二階建ての建物で、一階がカフェスペース、二階が厨房と私の住居になっている。
内装は、私が漫画家時代に憧れていた「猫カフェ」をイメージした。店内には猫のぬいぐるみや置物が飾られ、座席はふかふかのクッション椅子。壁には私が描いた猫のイラストが飾られている。
「イラストも描けるのね、ココ」
手伝いに来てくれたエリザベート嬢が感心している。
「まあ、元漫画家ですから。絵を描くのは得意です」
店名の看板も、私がデザインした。ケットシーが笑顔でお菓子を持っているイラストだ。
開店初日、行列ができた。
王女のお墨付きということで、貴族や富裕層が次々と訪れる。しかし、私の目標はそれだけではなかった。
「お菓子は、誰もが楽しめるものであるべきです」
価格設定を工夫し、安価なクッキーから高級なケーキまで、幅広いラインナップを用意した。銅貨数枚で買える商品もあれば、金貨が必要な特別品もある。
「美味しい! こんなの初めて食べた!」
子どもたちの笑顔が、何よりの報酬だった。

しかし、順調な滑り出しとは裏腹に、問題も発生した。
「ココ様、外に変な人が……」
店員のメイが心配そうに報告してくる。
外を見ると、黒い服を着た男が店の前に立っている。鋭い目つき、無表情、威圧的な雰囲気。
「何か御用ですか?」
恐る恐る声をかける。
「貴様がココか」
低く、冷たい声。
「お菓子などという軟弱なものを広めて、この国を弱体化させる気か」
「え?」
「戦士は質素な食事で鍛えられる。甘いものなど、戦う意志を削ぐだけだ。今すぐこの店を閉めろ」
なんと、お菓子反対派が現れたのだ。
「お菓子は人を弱くしません。むしろ、疲れた心を癒し、明日への活力を与えてくれます」
「戯言を!」
男が剣に手をかける。
「待ちなさい」
その時、凛とした声が響いた。振り向くと、そこには王女が立っていた。
私は思わず姿勢を正した。
王女は、玉座に座って話を聞くより、町を歩いて人の声を聞くのが好きだった。

だから、もふもふカフェに通うことも、深夜に相談を持ちかけることも、
彼女にとっては自然なことだった。

「王女殿下!」
 男は慌てて跪く。
「ダリウス卿、お菓子を否定するのは構いませんが、暴力は許しません」
「し、しかし……」
「お菓子が国を弱くするかどうか、それは結果が証明するでしょう。今は静観なさい」
男は渋々と去っていった。
「大丈夫だった、ココ?」
「はい、助かりました」
「気にしないで。あの人は古い考えの騎士団長なの。でも、あなたのお菓子がどれだけ素晴らしいか、いずれ理解してくれるはずよ」
王女の言葉に励まされ、私は店の経営を続けた。
< 3 / 3 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop