Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
偶然は、ここまで。

三度目に会うときは——

それはきっと、
どちらかが選んだときだ。

マスターは何も言わず、
ただ新しいボトルを棚から下ろす。

この夜は、
まだ終わらない気がした。


「このバー、落ち着きますよね」

旬が言う。

低く、ゆるやかな声。

希はワインを持ったまま、
店内をゆっくり見渡す。

天井から落ちる灯り。
壁に映る影のやわらかさ。
隣席との絶妙な距離。

「照明の高さが絶妙なんです。
あと、席の間隔」

さらりとした分析。

感想というより、観察。

旬の口元がわずかに上がる。

「そこまで見てるんですね」

「職業病ですね」

余計な自慢も、照れもない。

ただ事実を言うだけ。

「オーナーが聞いたら喜びますよ」

「へえ。ご存知なんですか?」

ほんの軽い好奇心。

深くは追わない、でも興味はある。

旬はワインをひと口飲む。

グラスを置くまで、ほんの一瞬だけ間を置く。

「ちょっとした知り合いです」

カウンターの奥で、
マスターの手が止まる。

布に包まれたグラスが、
一瞬だけ宙で静止する。

すぐに、何事もなかったように磨き続ける。

希は気づかない。

「素敵なお店ですとお伝え下さい」

そう言って、グラスを揺らす。

赤が、やわらかく波打つ。


マスターは知っている。

この店のオーナーが誰か。

そして今、その“オーナー”が
どんな顔で笑っているかも。
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