Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
自宅に着く。
エンジンを切ると、急に世界が静かになる。
マンションのエントランスを抜け、
エレベーターに映る自分の顔を見る。
平静。
いつも通りの、青山不動産の佐伯旬。
部屋のドアを開ける。
明かりをつける。
静かだ。
ネクタイを緩め、外す。
ジャケットをソファに投げる。
そのまま、身体を沈める。
天井を見上げる。
——落ち着け。
希は俺を選んでいる。
わかっている。
そう思っていた。
思っていた、のに。
胸の奥に、じわっと広がる感情。
嫉妬だ。
はっきりしている。
あんな感情、久しぶりだ。
いや——初めてかもしれない。
自分はいつも、余裕がある側だった。
追われることはあっても、
追う側になったことはない。
離れていく背中を、
どこか冷静に見送ってきた。
仕事が優先。
感情より合理性。
それが自分だった。
でも今は違う。
希が、誰かの名前をあのトーンで呼ぶのが嫌だ。
自然で、懐かしさの混じった声。
あの距離感。
あの空気。
過去の話だとわかっている。
終わっていると、希は言った。
それでも——
その時間に、自分が存在しなかったことが、悔しい。
高校の美術室。
ロンドンへ旅立つ夜。
あの「もう待たないで」というメール。
その全部に、自分はいない。
拳を握る。
馬鹿みたいだ、と苦笑する。
過去に嫉妬している。
変えられない時間に。
けれど同時に、はっきりと理解する。
それだけ、希が欲しいのだと。
肩書きでもない。
意地でもない。
ただ、あの人が。
ソファに沈んだまま、目を閉じる。
思い出すのは、希。
「旬だけ」
真っ直ぐな声。
腕に回された手。
自分を選ぶ、と言った目。
ゆっくりと息を吐く。
追う側になるのも、悪くない。
いや。
初めて、本気で追いたいと思ったのが、希だ。
エンジンを切ると、急に世界が静かになる。
マンションのエントランスを抜け、
エレベーターに映る自分の顔を見る。
平静。
いつも通りの、青山不動産の佐伯旬。
部屋のドアを開ける。
明かりをつける。
静かだ。
ネクタイを緩め、外す。
ジャケットをソファに投げる。
そのまま、身体を沈める。
天井を見上げる。
——落ち着け。
希は俺を選んでいる。
わかっている。
そう思っていた。
思っていた、のに。
胸の奥に、じわっと広がる感情。
嫉妬だ。
はっきりしている。
あんな感情、久しぶりだ。
いや——初めてかもしれない。
自分はいつも、余裕がある側だった。
追われることはあっても、
追う側になったことはない。
離れていく背中を、
どこか冷静に見送ってきた。
仕事が優先。
感情より合理性。
それが自分だった。
でも今は違う。
希が、誰かの名前をあのトーンで呼ぶのが嫌だ。
自然で、懐かしさの混じった声。
あの距離感。
あの空気。
過去の話だとわかっている。
終わっていると、希は言った。
それでも——
その時間に、自分が存在しなかったことが、悔しい。
高校の美術室。
ロンドンへ旅立つ夜。
あの「もう待たないで」というメール。
その全部に、自分はいない。
拳を握る。
馬鹿みたいだ、と苦笑する。
過去に嫉妬している。
変えられない時間に。
けれど同時に、はっきりと理解する。
それだけ、希が欲しいのだと。
肩書きでもない。
意地でもない。
ただ、あの人が。
ソファに沈んだまま、目を閉じる。
思い出すのは、希。
「旬だけ」
真っ直ぐな声。
腕に回された手。
自分を選ぶ、と言った目。
ゆっくりと息を吐く。
追う側になるのも、悪くない。
いや。
初めて、本気で追いたいと思ったのが、希だ。