Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
天井を見つめながら、小さく呟く。
「負けるかよ……」
誰にでもない。
過去にも。
あの画家にも。
そして、自分の弱さにも。
静かな部屋で、
旬の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。
スマホを手に取る。
無意識だった。
検索窓に打ち込む。
“ayumu miura”
一瞬の読み込みのあと、
画面に並ぶ作品。
大胆な色彩。
繊細な線。
抽象の中に浮かび上がる人物の輪郭。
受賞歴。
海外の記事。
インタビュー動画。
パリ。
ニューヨーク。
ロンドン。
評価の言葉が、次々と目に入る。
——すごい。
正直、認めざるを得ない。
この男は、本物だ。
才能だけじゃない。
続けた人間の強さがある。
夢を叶えた男。
情熱を持ち続けた男。
だからこそ、怖い。
もし。
もし希が、あの頃の続きを思い出したら。
まだ何者でもなかった二人の時間。
不器用で、真っ直ぐだった感情。
もし「やっぱり」なんて思ったら。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
呼吸が浅くなる。
——いや。
違う。
旬は、スマホを伏せる。
問題は、歩じゃない。
自分だ。
希が、なかなか引っ越しの話をしてこなかった理由。
もしかして。
まだどこかで、過去を整理できていなかったから?
自分は急かさなかった。
聞かなかった。
「そのうちでいいよ」
「タイミング見て決めよう」
優しさのつもりだった。
でも。
本当は——
怖かっただけかもしれない。
はっきりさせるのが。
覚悟を問うのが。
失うのが。
希のいない部屋を想像する。
このソファ。
この静けさ。
隣に、彼女の笑い声がない。
想像しただけで、息が詰まる。
喉が、熱くなる。
こんなに好きだったのか。
今さら、思い知る。
守りたいとか、余裕とか、
そんな言葉じゃ足りない。
いなくなる未来なんて、考えたくない。
旬は目を閉じる。
逃げるな。
歩は関係ない。
希が選ぶのは、
過去の輝きじゃない。
今、隣に立つ人間だ。
なら——
立ち止まっている場合じゃない。
スマホをもう一度手に取る。
今度は検索じゃない。
メッセージ画面を開く。
指が、少しだけ震える。
でも、打つ。
「明日、会える?」
送信。
静かな部屋に、小さな既読の表示が灯るのを待ちながら。
旬は初めて、
本気で“選ばれにいく”覚悟をした。
旬は、小さく笑う。
「やばいな、俺」
声に出すと、少しだけ現実味が増す。
こんなに必死になるなんて。
こんなに不安になるなんて。
完全に、逆転している。
これまでの自分なら、
余裕のある顔で一歩引いていた。
追われる側。
選ぶ側。
それが当たり前だった。
でも今は違う。
追っているのは、自分だ。
希の言葉を。
視線を。
未来を。
情けないとは思わない。
むしろ——
こんなふうに誰かを好きになれる自分を、
どこか誇らしくさえ思う。
それでもいい。
希を好きでいる自分を、やめたくない。
その瞬間。
スマホが震える。
視線を落とす。
メッセージ。
希から。
『今日はありがとう。明日うちでご飯たべよ。』
たったそれだけ。
短い。
でも、その文字を見た瞬間、
胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけほどける。
ちゃんと、繋がっている。
指が自然に動く。
『お疲れさま。無理しないでね』
送信。
たったそれだけ。
余計な感情は乗せない。
重さも、焦りも、見せない。
でも。
本当は言いたい。
希。
俺は、ちゃんと好きだよ。
失うの、怖いくらいに。
画面を見つめたまま、
旬は深く息を吐く。
焦らなくていい。
比べなくていい。
過去に勝つ必要もない。
ただ——
明日も、隣に立てる自分でいればいい。
そう思いながらも、
胸の奥では、確かな熱が燃えている。
初めて本気で、
誰かに選ばれ続けたいと願う夜だった。
「負けるかよ……」
誰にでもない。
過去にも。
あの画家にも。
そして、自分の弱さにも。
静かな部屋で、
旬の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。
スマホを手に取る。
無意識だった。
検索窓に打ち込む。
“ayumu miura”
一瞬の読み込みのあと、
画面に並ぶ作品。
大胆な色彩。
繊細な線。
抽象の中に浮かび上がる人物の輪郭。
受賞歴。
海外の記事。
インタビュー動画。
パリ。
ニューヨーク。
ロンドン。
評価の言葉が、次々と目に入る。
——すごい。
正直、認めざるを得ない。
この男は、本物だ。
才能だけじゃない。
続けた人間の強さがある。
夢を叶えた男。
情熱を持ち続けた男。
だからこそ、怖い。
もし。
もし希が、あの頃の続きを思い出したら。
まだ何者でもなかった二人の時間。
不器用で、真っ直ぐだった感情。
もし「やっぱり」なんて思ったら。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
呼吸が浅くなる。
——いや。
違う。
旬は、スマホを伏せる。
問題は、歩じゃない。
自分だ。
希が、なかなか引っ越しの話をしてこなかった理由。
もしかして。
まだどこかで、過去を整理できていなかったから?
自分は急かさなかった。
聞かなかった。
「そのうちでいいよ」
「タイミング見て決めよう」
優しさのつもりだった。
でも。
本当は——
怖かっただけかもしれない。
はっきりさせるのが。
覚悟を問うのが。
失うのが。
希のいない部屋を想像する。
このソファ。
この静けさ。
隣に、彼女の笑い声がない。
想像しただけで、息が詰まる。
喉が、熱くなる。
こんなに好きだったのか。
今さら、思い知る。
守りたいとか、余裕とか、
そんな言葉じゃ足りない。
いなくなる未来なんて、考えたくない。
旬は目を閉じる。
逃げるな。
歩は関係ない。
希が選ぶのは、
過去の輝きじゃない。
今、隣に立つ人間だ。
なら——
立ち止まっている場合じゃない。
スマホをもう一度手に取る。
今度は検索じゃない。
メッセージ画面を開く。
指が、少しだけ震える。
でも、打つ。
「明日、会える?」
送信。
静かな部屋に、小さな既読の表示が灯るのを待ちながら。
旬は初めて、
本気で“選ばれにいく”覚悟をした。
旬は、小さく笑う。
「やばいな、俺」
声に出すと、少しだけ現実味が増す。
こんなに必死になるなんて。
こんなに不安になるなんて。
完全に、逆転している。
これまでの自分なら、
余裕のある顔で一歩引いていた。
追われる側。
選ぶ側。
それが当たり前だった。
でも今は違う。
追っているのは、自分だ。
希の言葉を。
視線を。
未来を。
情けないとは思わない。
むしろ——
こんなふうに誰かを好きになれる自分を、
どこか誇らしくさえ思う。
それでもいい。
希を好きでいる自分を、やめたくない。
その瞬間。
スマホが震える。
視線を落とす。
メッセージ。
希から。
『今日はありがとう。明日うちでご飯たべよ。』
たったそれだけ。
短い。
でも、その文字を見た瞬間、
胸の奥に溜まっていた重さが、少しだけほどける。
ちゃんと、繋がっている。
指が自然に動く。
『お疲れさま。無理しないでね』
送信。
たったそれだけ。
余計な感情は乗せない。
重さも、焦りも、見せない。
でも。
本当は言いたい。
希。
俺は、ちゃんと好きだよ。
失うの、怖いくらいに。
画面を見つめたまま、
旬は深く息を吐く。
焦らなくていい。
比べなくていい。
過去に勝つ必要もない。
ただ——
明日も、隣に立てる自分でいればいい。
そう思いながらも、
胸の奥では、確かな熱が燃えている。
初めて本気で、
誰かに選ばれ続けたいと願う夜だった。