Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
旬のキスは、いつもより少し荒い。

確かめるようで。
探るようで。

離れないように、触れる。

希は思う。

こんなふうに求められると、
全部わかってほしくなる。

強がりも。
過去も。
不安も。

「歩とは、終わってるよ」

ぽつりと、零す。

旬の動きが、止まる。

ゆっくり、顔を上げる。

目が合う。

「わかってる」

そう言いながらも、
瞳の奥には揺れがある。

希は、その頬に手を伸ばす。

「今、隣にいるのは旬だよ」

静かな声。

「旬じゃなきゃやだよ、私」

言葉にすると、
胸の奥がすっと整う。

旬の眉間の力が、少し抜ける。

「……怖いんだよ」

低く、素直な声。

「失うのが」

希は、ぎゅっと抱きしめ返す。

「失わないよ」

断言はできない。

未来なんて、誰にもわからない。

でも、今この瞬間は、確かだ。

旬は、もう一度キスをする。

今度は、少しだけ優しい。

確かめるためじゃなく、
重ねるためのキス。

不安ごと、抱きしめるみたいに。

夜は静かに、二人を包んでいた。

「旬だけ」

真っ直ぐな声だった。

迷いも、揺れもない。

その瞬間、
旬の中で固く結ばれていた何かが、ふっとほどける。

抱きしめる腕に、力がこもる。

でもそれは、さっきまでの焦りじゃない。

奪われるかもしれないという恐れでも、
確かめるための衝動でもない。

安堵。

ようやく辿り着いた場所を、確かめるみたいに。

体温が重なっていく。

激しさというより、執着。

触れるたびに、
離れたくない気持ちが滲む。

旬の指が、希の背中をなぞる。
そこにいることを、確かめるように。

希は、そっと腕を回す。

背中越しに伝わる鼓動。
早い。

ああ、ちゃんと不安だったんだ。
旬でもそんなふうになるんだ。

心の中で思う。

どうしたらわかってくれるの?

じゃない。

もう、わかってる。

この人はちゃんと、私を好きだ。

強くて、冷静で、余裕があるように見えて。

でも、ちゃんと揺れて、
ちゃんと怖がって、
それでも隣に立ってくれる人。

そして——

私も。

嫉妬してくれることが、少し嬉しいなんて。

ずるいな、私。

旬の額が、希の肩に触れる。

深く息を吸う。

「……離れないで」

小さな声。

希は微笑む。

「離れないよ」

夜は、静かに深くなる。

言葉は少ない。

でも。

重なる鼓動と、絡む指先だけで、
確かめ合うには十分だった。

過去も、不安も、
今はここに溶けていく。
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