Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
二人は、いつも通り食事をする。

ポトフを取り分けて、
ワインを注いで、

「ちょっと味薄い?」
「いや、ちょうどいい」

笑う。

指先が触れる。
自然にキスもする。

温度も、距離も、変わらない。

希は揺れていない。

それは、わかる。

視線も、言葉も、
自分をまっすぐ見ている。

——でも歩は動いている。

その事実だけが、
静かな波のように、旬の内側を揺らす。

自分の知らない場所で、
自分の知らない時間を共有した男。

今も、動いている。

テーブルの上のスマホは、
もう鳴らない。

けれど、通知は消えていない。

まるで、消していない“可能性”みたいに。

旬はグラスを置き、
希の頬に触れる。

柔らかい。

「なに?」

「いや」

それ以上は言わない。

言えば、壊れそうで。

夜は静かに更けていく。



同じ頃。

歩は暗い部屋で、スマホを見つめている。

大きな窓の向こう、
都会の灯りがぼんやり滲む。

画面には、送信済みのメッセージ。

既読は、つかない。

しばらくして、歩は小さく笑う。

「今は、そっちか」

責める響きはない。

理解している声。

けれど——

諦めた顔ではない。

スマホをテーブルに置き、
椅子の背にもたれる。

天井を見上げる。

「会えば、分かる」

静かな確信。

希の目の奥を、
自分は知っているという自負。

時間は流れた。

でも、消えていないものもあると、
歩は思っている。

暗い部屋で、
彼の影が長く伸びる。

三人の夜は、

それぞれ違う温度で、
静かに、動き続けていた。
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