Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する
シンクに流れる水の音。
食器を洗う希の後ろ姿。
エプロンの紐が、細い背中で揺れる。
旬はダイニングから、その背中を見ている。
スマホはテーブルに伏せられたまま。
画面の向こうには、歩。
見えないはずなのに、
確かにそこにいる気配。
旬はワインを一口飲む。
喉を通る赤い液体が、妙に重い。
そして、できるだけ自然な声で言う。
「……会ってきたら?」
水の音が止まる。
希が振り向く。
「え?」
驚きと、戸惑い。
旬は視線を逸らさない。
「ちゃんと話したいって言ってるんだろ?」
静か。
余裕のある声。
けれど、テーブルの下で、
指先はグラスを強く握っている。
「俺は大丈夫だから」
嘘ではない。
会うこと自体を、止めたいわけじゃない。
でも。
胸の奥に、確かにあるざわめき。
強がり。
希は、少し眉を寄せる。
「え、なんで? 別に会わなくてもよくない?」
本気で不思議そうな顔。
旬は笑う。
「向こうが終わってないなら、ちゃんと終わらせた方がいい」
言いながら、
自分の胸がざわつく。
終わらせる、なんて。
会えば、何かが動くかもしれないのに。
それでも、言う。
逃げたくないから。
余裕のある男でいたいから。
希を縛る男にはなりたくないから。
希は、手を拭きながら近づいてくる。
「終わってるよ」
まっすぐな声。
「私の中では、とっくに」
旬の喉が、わずかに動く。
「でも、ちゃんと区切りたいなら、会えばいい」
そう続ける。
自分で選ばせる。
それが、信頼だと信じたい。
希は、じっと旬を見る。
「旬、本当に大丈夫?」
その問いに、
一瞬だけ、言葉が詰まる。
それでも笑う。
「大丈夫」
今度は、はっきりと。
強がりでも、意地でもなく。
怖い。
でも、逃げない。
希を信じることを、選ぶ。
その覚悟ごと、飲み込む。
シンクの水音が、また静かに流れ出す。
テーブルの上のスマホは、
まだ伏せられたまま。
夜は、穏やかに見えて、
水面下では、
確かに何かが動いていた。
——会わせたくない。
本音は、そこにある。
でも。
止める男にもなりたくない。
歩に対抗するなら、余裕でいたい。
肩書きでも、家柄でもなく。
“今、隣にいる男”として。
旬は、静かに息を整える。
「行ってきなよ」
もう一度言う。
その声は、さっきより少しだけ低い。
わずかな緊張が、混じっている。
希は、じっと旬を見る。
歩と挨拶を交わしていた、あの表情。
無表情の奥で、何かを押し殺していた目。
全部、つながる。
食器を洗う希の後ろ姿。
エプロンの紐が、細い背中で揺れる。
旬はダイニングから、その背中を見ている。
スマホはテーブルに伏せられたまま。
画面の向こうには、歩。
見えないはずなのに、
確かにそこにいる気配。
旬はワインを一口飲む。
喉を通る赤い液体が、妙に重い。
そして、できるだけ自然な声で言う。
「……会ってきたら?」
水の音が止まる。
希が振り向く。
「え?」
驚きと、戸惑い。
旬は視線を逸らさない。
「ちゃんと話したいって言ってるんだろ?」
静か。
余裕のある声。
けれど、テーブルの下で、
指先はグラスを強く握っている。
「俺は大丈夫だから」
嘘ではない。
会うこと自体を、止めたいわけじゃない。
でも。
胸の奥に、確かにあるざわめき。
強がり。
希は、少し眉を寄せる。
「え、なんで? 別に会わなくてもよくない?」
本気で不思議そうな顔。
旬は笑う。
「向こうが終わってないなら、ちゃんと終わらせた方がいい」
言いながら、
自分の胸がざわつく。
終わらせる、なんて。
会えば、何かが動くかもしれないのに。
それでも、言う。
逃げたくないから。
余裕のある男でいたいから。
希を縛る男にはなりたくないから。
希は、手を拭きながら近づいてくる。
「終わってるよ」
まっすぐな声。
「私の中では、とっくに」
旬の喉が、わずかに動く。
「でも、ちゃんと区切りたいなら、会えばいい」
そう続ける。
自分で選ばせる。
それが、信頼だと信じたい。
希は、じっと旬を見る。
「旬、本当に大丈夫?」
その問いに、
一瞬だけ、言葉が詰まる。
それでも笑う。
「大丈夫」
今度は、はっきりと。
強がりでも、意地でもなく。
怖い。
でも、逃げない。
希を信じることを、選ぶ。
その覚悟ごと、飲み込む。
シンクの水音が、また静かに流れ出す。
テーブルの上のスマホは、
まだ伏せられたまま。
夜は、穏やかに見えて、
水面下では、
確かに何かが動いていた。
——会わせたくない。
本音は、そこにある。
でも。
止める男にもなりたくない。
歩に対抗するなら、余裕でいたい。
肩書きでも、家柄でもなく。
“今、隣にいる男”として。
旬は、静かに息を整える。
「行ってきなよ」
もう一度言う。
その声は、さっきより少しだけ低い。
わずかな緊張が、混じっている。
希は、じっと旬を見る。
歩と挨拶を交わしていた、あの表情。
無表情の奥で、何かを押し殺していた目。
全部、つながる。