Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

戦略会議

――Mino本社会議室。

テーブルには資料と、黒いボックスがいくつか。

集まっているのは
佐伯三兄弟そして圭祐。

「本日お集まり頂いたのは…」

全員「……?」

視線が一斉に集まる。

希、完全に社長モード。
声のトーンも姿勢も一切ブレない。

「ランジェリーについてですが、今までは着心地、デザインにこだわって作って来ました」

頷く一同。

「ですが新作に関しては、男性目線の“デザイン・触り心地・脱がせやすさ”この辺りにも着目したいと思います」

空気が止まる。

凌「……はい?」

広哉「ちょっと待って」

圭祐、咳払い。

旬だけ無言で希を見る。

希、淡々と続ける。

「AとB、2種類お配り致します。なるべく1週間以内にパートナーに着用をお願いして、下記のQRコードよりアンケートにお答えください。よろしくお願いいたします」

沈黙。

広哉「え?モニターってこと?」

凌「つまり実証実験?」

圭祐、顔がじわじわ赤い。

「脱がせやすさって…具体的に?」

ザワザワ。

希、表情ひとつ変えない。

「はい、モニターです」

即答。

「だって女性社員に“彼氏に感想聞いてきて!”なんて言ったら、このご時世パワハラかセクハラでしょ?」

一同、ぐうの音も出ない。

希、資料を指差す。

「従来のブラのサイズ規定はやめて、サイズはXSからXLの5種類に絞ります。これでコストはかなり抑えられる」

「そして重要なのは、“彼氏がこの下着いいね”と思うかどうか」

「そこが取れればリピーターは確実に増えます」

真っ直ぐな目。

圭祐、小さく笑う。

「合理的すぎる…」

凌「本気だな」

広哉「さすが社長」

そして、全員がなんとなく旬を見る。

旬は腕を組んだまま。

表情、ほぼ無。

希、さらっと。

「もちろん旬もお願いします」

一瞬、空気が変わる。

凌「……旬も?」

圭祐、ニヤリ。

「いや、お前一番ガチ審査しそうだな」

広哉「脱がせやすさに関しては経験値ありそうだし」

「おい」

旬、低く。

でも耳がほんのり赤い。

希、完全に仕事顔のまま。

「旬は特に詳細コメント希望です」

旬、目細める。

「特に、って何だ」

「分析力高いから」

即答。

凌、吹き出す。

圭祐「そこ評価軸なんだ」

希、にこっと微笑む。

「これが成功したらヒットの予感しかないんだよね」

「Minoを次のステージに上げる商品になります」

その目は本気。

広哉、観念。

「分かった。やる」

凌「1週間以内ね。」

圭祐「アンケート、ちゃんと細かいな…」

旬、静かにボックスを持つ。

「締切守ればいいんだな」

希、満足げに頷く。

「なので完成までよろしくお願いいたします♡」

その♡でメンズ達がまた少しざわつく。

会議終了。

凌、小声。

「どう説明すんの?」

圭祐「“仕事だから”で押し切る?」

広哉「希の本気、断れないよな」


――ざわつきがまだ残る会議室。

箱を持ちかけたままのメンズ達。

その空気を見て、希がもう一度口を開く。

「ちなみに」

全員、ピタッと止まる。

希、落ち着いた声で。

「パートナーが嫌がったら無理強いはなしです」

空気が少し和らぐ。

「当然ですけど、絶対に強制しないでください」

旬、静かに頷く。

広哉も真面目な顔に戻る。

凌「そこは大前提ね」

圭祐「了解」

希、続ける。

「あとは、いつも通りでお願いします。変わったことをしようとしないでください」

凌「変わったこと?」

「“今日は評価だから”みたいな空気出さないでください」

一同、図星。

圭祐、苦笑。

「それやりそうだった」

希、淡々と。

「自然な状態で、自然に感じたことが欲しいんです」

資料を指で軽く叩く。

「あと、このコンセプトを商品名に入れるつもりもありません」

広哉「え、そうなんだ」

「はい。あくまで目標は“着ててなんかいいな”です」

静かに響く。

派手でもなく、あざとくもなく、でも確実に残る感覚。

旬、じっと希を見る。

その目は完全に経営者を見る目。

希、さらに。

「アンケートも無記名です。忖度なしでお願いします」

圭祐「無記名か」

凌「それなら正直に書けるな」

広哉「脱がせやすさも?」

希、真顔。

「具体的にお願いします」

一瞬沈黙。

そして、メンズ達がじわっと笑い出す。

旬、低く。

「書く側も覚悟いるな」

希、最後に少しだけ柔らかく笑う。

「よろしくお願いいたします♡」

広哉、箱を持ち直す。

「よし。ヒットさせよう」

凌「データは正義」

圭祐「“なんかいいな”か…難しいけど面白い」

旬、静かに一言。

「当てるぞ」

その声に迷いはない。

会議室のドアが開く。

戦略はもう走り出している。

中に残った希は、ひとり小さく息を吐く。

“なんかいい”

それが一番強い。

――会議が終わり、メンズ達がそれぞれ箱を抱えて出ていく。

「無理強いなしだからな」
「自然に、自然に…」
「脱がせやすさって何書けばいいんだよ…」

ザワザワしながら廊下へ消えていく背中。

ドアが閉まる。

静かになった会議室。

希、スマホを手に取る。

グループ名
《姉会+美海♡》

既読、全員ついている。

――そう。

希は兄嫁達と美海には事前に連絡済み。

《来週あたり、たぶん“会社の未来のために”とか言ってサンプル渡されます😂》
《AとB、どっちも着てあげてください🙏》
《リアルな感想ほしい!》

返ってきた返信。

広哉嫁 未来《了解♡》
凌嫁 凛《面白そうじゃない?》
圭祐彼女 美海《圭祐に言われる前にワクワクしてる私どうしたらいい?笑》

希、くすっと笑う。

《男性たちはまだ何も知らないから内緒で🙏》

既読の嵐。

未来《任せなさい》
凛《むしろ向こうが照れてるね》
美海《圭祐の反応観察しとく♡》

希、スマホを置く。

完全に段取り済み。
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