身代わりの結婚は本当の愛のために
 自分の世界に入り込んでいたせいで、少しぶっきらぼうに返してしまった。
「なにを撮ってる?」

 その言葉の意味がすぐには理解できず、私はポカンとしたまま立ち尽くしていた――が、やがて少しずつ、その意図が染み込むように頭に入ってきた。

 誰も足を止めない場所で勝手に写真を撮ったのだ。個人情報などに厳しいこのご時世、許されることではない。
「申し訳ありません。すぐに消します」

 スマホを操作していると、ため息交じりの声が降ってきた。
「いや、そうじゃなくて……なにをしてたんだ?」

 そう尋ねられ、私は唇をキュッと嚙みしめた後、スッとバッグから名刺入れを取り出した。ここで名乗らなくて、警察に突き出されたら人生終わってしまう。

「申し訳ありません。私、広告の仕事をしてます。あのビジョンの周りの雰囲気を撮りたくて」
 正直にそう言うと、彼はじっと名刺に視線を落とした後、私の顔をまじまじと見た。
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