身代わりの結婚は本当の愛のために
 そのとき、斎藤ちゃんの言葉を思い出す。「雪だるまみたい」とばっさり言われたばかりだ。たしかに自分でも、広告業界の一般的なイメージにあるようなおしゃれな服も着ていないし、どちらかというと機能性重視で女子力も低い……。

「信じていただけないかもしれないですが、本当に怪しいものではなく、あなたに興味はない……」
 焦っていたこともあり、言わなくてもいいことを言ったのはわかっていたが、出てしまった言葉はもう取り消せない。
 終わった……。これは盗撮だ、だが警察だけには連れていかれたくない、そう思ったときだった。

「わかった。疑って俺も悪かった」
 まさか謝られると思っておらず、私は唖然として目の前の人を見つめた。なにを言っていいかわからなかった私に「怪しまれないようにがんばって」そう言い残し、その人はさっそうと人ごみに消えていった。

「うん、なんかがんばろう」
 そう思うと、私はまたそのビジョンに目を移した。クリスマスが近いからだろうか、楽しげなカップルが多い気がする。
 それは気のせいで、昨日の話を思い出したからかもしれない。もう、仕事は終わりだが、私は家に帰る気になれず、ゆっくりと当てもなく、その街を歩き始めた。
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