身代わりの結婚は本当の愛のために
 TOKIWAデザインは、もともと祖父が広告やパッケージデザインを手がける小さな事務所として始めた会社だ。祖父の代で徐々に規模を拡大し、広告業界でもそれなりに知られた中堅企業に成長した。
 けれど、父の代になってからは方向が変わった。クリエイティブな才能がまったくなかった父は、それ以外の分野で成果を出そうと、不動産やマンスリーマンションの経営など手を広げすぎた結果、業績は今ひとつだ。
 その代わりのように、父は私にクリエイティブな習い事ばかりをさせた。

 一度、「なにか違う習い事をやってみたい」と言ったこともあったが、それは叶わなかった。
TOKIWAという社名はあるが、私が社長の娘だと考える人はおらず、社長令嬢といった肩書に縛られることなく、純粋に仕事だけで評価されているのは、ある意味ありがたいことだった。
 七光りだの、親のコネだのと言われたくないし、デザインの世界でそんなものなんの役にも立たないことは、この数年でよくわかったからだ。

 ただ、命じられてやってきたことが、たまたま自分に向いていた。きっと、そういうことなのだろう。
 仕事は好きだし、習い事をさせてくれたことには感謝しかない。
「それにしても、今日は寒いですね……。積もるかな」
 隣の斎藤ちゃんが、空を見上げながら顔をしかめる。黒のシンプルなロングコートを着ていて、その下になにを着ているのかはわからないが、とりあえず寒そうに見える。
「もう少し温かいのを着たらいいのに」
 そう口にすると、斎藤ちゃんはあきれたように私を一瞥した。
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