ゴシップ記者令嬢なので婚約破棄の真実を暴いたら侯爵令息さまに付きまとわれています。邪魔です。

執着だなんて聞いてない!

  ✻ ✻ ✻


「こんな記事、出せるわけないだろう」

 新聞部の部室で、アーサーは一枚の号外を机に放り投げた。
 そのタイトルは「ローランド王子・婚約破棄騒動の真相――聖女と依存の心理学」。

「学園側にはかるまでもない。発禁だ!」
「ええぇーっ!」

 今日もルーシー以外の部員はいない。ルーシーの新記事という情報にアーサーが部室へ駆けつけたら、全員が自主的に出ていったのだ。
 だがルーシーにとって発禁処分は、部員退去以上の横暴。アーサーに恨みがましい目を向ける。

「なんで邪魔するんですか」
「邪魔してるわけじゃない。こんなもの世に出したらルーシーがつぶされるぞ」
「え」

 はあ、とため息をついてアーサーは立ち上がった。ルーシーの椅子に歩み寄る。

「王子の婚約や結婚が高度に政治的なものなのはわかるな?」
「馬鹿にしないで下さい。だからこそオープンに論じるべきだとの主張を盛り込みました」
「聖力の応用というのが非常にまれな状態なのは」
「知ってます。だからかなりボカシて書いたつもりですよ」
「まあそれは認める。何も知らない一般人になら、ギリ読ませられるとは思った」
「なら」
「これは学園新聞だろうが!」

 アーサーはガツンと怒鳴る。
 ローランド王子が婚約破棄を言い立てたあの日から、生徒たちは息をひそめて成り行きをうかがっていた。そこにこんな燃料を投下したらクララの能力が白日の下にさらされるも同然。それではルーシーが聖会を敵に回すことにもなりかねない。生徒たちに口外を禁じて事を進めたアーサーの努力が水の泡だ。

「まったく……危なっかしい」

 アーサーは座っているルーシーの上半身をそっと抱き寄せた。
 いきなりの行動に硬直したルーシーは目玉をひんむいて動けなくなった。男に不慣れなルーシーに、アーサーは容赦しない。

「ルーシー、僕に興味はないかな?」

 笑みを含んだ声に、ルーシーは必死で言い返した。

「……取材ならいくらでもしますよ?」
「だろうね。そうじゃなくて、僕個人への興味のことなんだが」
「っ……とりあえず放して下さい。邪魔です」
「ひどいな」

 アーサーが腕をゆるめると、それを突き飛ばすようにしてルーシーは逃げる。ドアの方へ。だがノブに手をかけた時、タン、とアーサーの腕がルーシーを閉じ込めた。

「逃げるのなら――」

 ドアとアーサーの胸板に挟まれて、ルーシーは真っ赤になる。

「もっと邪魔することにしよう」

 甘いささやきはやっぱり横暴だ。
 返事のできないルーシーの背中、ドアの向こうで「ひあぁぁ……」「ふぐぅっ」と妙なうめき声がする。ルーシーは腹立ちまぎれに叫んだ。

「ぬ……盗み聞きしてんじゃないわよ!」
「おや、自分が取材されるのは嫌だなんて我がままだな」

 アーサーはどこまでも楽しそう。その言い分にルーシーは反論できない。

 でも誓った。
 ――いずれ理論武装してアーサーを言い負かしてやるのだ!


  了
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