最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「ありがとうございます。大丈夫です」

「先に食べていてください。私、髪を乾かしたらコンビニまでTシャツを買いに行きます」

「いえ、自分で買いますから大丈夫です」

「上半身裸の男性がうろついたら、それこそ通報案件ですよ」

 鞠花に笑い混じりに指摘された祥吾は、それもそうだと思って厚意に甘える事にした。

 鞠花はドライヤーで髪を乾かし、仕事用に髪をきっちりまとめたあと、Tシャツにショートパンツというラフな格好で出て行った。

(……食べるか)

 祥吾は誰もいない空間で、「いただきます」と手を合わせて割り箸を持つ。

 味噌汁の具は絹ごし豆腐に若布が入っていて、豆腐はやや小さめにカットされてある。

 小鉢には、残り物らしい里芋の煮っ転がしが二つ入っていた。

 米は祥吾がいつも食べている最上級の銘柄には及ばないが、炊きたてだからか「美味い」と思った。

「……悪くない」

 呟いた祥吾は、上半身裸のまま初対面の女性の手料理を食べていく。

 本来、彼は女性の手料理を食べない主義だ。

 女性は「男の胃袋を掴めばこっちのもの」と思っているものだ。

 魅力に欠ける女性が「手料理をご馳走してあげる」と自信満々に言う姿を見ると、「絶対に食べるもんか」と思ったものだ。

 舌の肥えた自分が、素人の料理で満足できるはずがない。

 祥吾の家には家政婦が通っていて、彼女は星付きレストランで働いていた経歴がある。

 自宅で食べる料理もプロが作った物である自分が、一般人の手料理を食べる日がくるとは思ってもみなかった。

 なのに今、彼は安価なスーパーで買っただろう食材で作られた食事を、「悪くない」と思って旺盛に食べ進めている。

(吊り橋効果かな)

 助けてくれた恩があるから、と言われたらそれまでだ。

 けれど、あの出来事がなかったら鞠花と出会う事もなかっただろう。

(物凄く冷静だったけど、本当に動じてなかったのかな。看護師ってみんなそうなんだろうか)

 鞠花について考え始めると、彼女が何を考えているのか知りたい欲が出てくる。

(いつもなら『お世話になりました』で終わらせるけど、……もう少し彼女を知る機会を設けてもいいか)

 ポリ……と囓ったぬか漬けは、懐かしい味がした。



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