最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「え? ……ありがたいですけど、そんなつもりはなかったので……」

 下心があって助けた訳ではないので、そう言われると困ってしまう。

 けれど修吾は「メモ帳をくれますか?」と言って用紙をもらうと、自分の連絡先を書いて彼女に握らせた。

「連絡帳に加えてもらえますか? 鞠花さんの都合のいい時に、食事に行けたらと思います」

「……はい」

 大した事をした訳ではないので断ろうと思ったが、修吾からすれば命の恩人なのだろう。

 病院に勤めていても、病院や看護師に恩を感じた患者やその家族が、お礼として菓子折を持ってくる事はある。

 勿論、仕事としてやっているので、丁重にお断りするが。

 けれど今回はプライベートな訳で、修吾の気持ちはある程度理解できる。

 ひとまず連絡先をもらって家を出ると、早朝よりもずっと気温が上がっていた。

「今日も暑くなりそうですね」

 間を持たせるために微笑みかけると、修吾が尋ねてきた。

「一人暮らし、危なくないですか?」

「え? ……んー、慣れですね」

「そう……、ですか」

 エレベーターの中で、フワッといい匂いがしたのは、彼がつけている香水だろうか。

(格好いい人は匂いも素敵なんだな)

 鞠花は香水にさほど興味を持っていないが、「この匂いはいいな」と感じた。

 やがてエレベーターは一階につき、二人はマンションの前で別れる事にした。

「それじゃあ、お気をつけて」

 ペコリと頭を下げると、修吾も丁寧に頭を下げた。

「助けてもらったご恩、きちんとお返しします」

「いいですって」

 軽く笑ってから、鞠花はいつもの道を歩き始めた。



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