最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 木曜日の夜勤では、同僚や先輩から「やけにソワソワしてるね」とからかわれて仕事を終え、金曜日の昼間に起床する。

「はぁ……」

 あれだけの服飾品を用意してもらったのなら、こちらも相応の準備をしなければならないと思った鞠花は、木曜日の夜勤前にネイルサロンに行った。

 仕事上ネイルはできないので、ハンドとフットのケアをしてもらった。

 足をお湯につけて踵の角質を落とし、手足ともに甘皮処理をされて爪を磨かれる。

 そのあとはいい匂いのするオイルでマッサージされ、ピカピカになった爪を見て満足した。

「食事をするだけなのに、こんな大事(おおごと)になると思わなかった……」

 鞠花としては少しお洒落なレストランで話して終わり……というつもりだったが、修吾の考えは違うらしい。

「お金持ちなんだろうなぁ……」

 鞠花は溜め息をつき、理想と現実のギャップを痛感する。

 彼女としても、ハイスペックイケメンとの恋愛漫画を読んでときめいている身だ。

 物語に浸っている時は、「こんなイケメンに愛されている主人公、いいな」と思った。

 映画『プリティ・ウーマン』のように一人前のレディに仕立てあげられるストーリーも好きだし、結局、大体の女性はシンデレラストーリーが好きなのだと思っている。

 しかしそれが現実のものとなり、自分の身に起こるとなると話は別だ。

「人に高価な物を買ってもらうのが、こんなに負担だとは思わなかったな……」

 人によっては〝タダ飯〟を喜ぶ者がいるだろうが、鞠花は常に相手と対等な関係でいたいと願っている。

 自分ばかり貢ぐのも嫌だし、相手にされて当然と思うのも嫌だ。

 だからと言って徹底した割り勘主義という訳でもなく、お互いのバランスがとれていればOKと思う派だ。

 なので修吾から〝圧倒的な経済力の差〟を見せられると、どうしたらいいか分からなくなる。

「多分、価値観が違うんだろうなぁ」

 鞠花は日々、スーパーのチラシを見比べて、一番安く買える場所に自転車を走らせている。

 だが修吾は、買う物の値段を気にしていなさそうな感じがする。

 今までの経験上、あまりに価値観の違いすぎる人を相手にする場合、自分の常識に合わせようとせず、その場限りで「こういう人なんだ」と思ってやり過ごしたほうが楽だと分かっている。

 彼の事は素敵な人だと思うし、憧れていた漫画の主人公のように、素晴らしい贈り物もしてもらえた。

 でも今回限りだ。

「今日は神様からご褒美をもらったと思って、半日楽しもう」

 そう決めると、鞠花は寝汗を流すためにシャワーを浴びた。

 修吾とは十八時に待ち合わせをしているので、それまでに入念にメイク、髪のセットに励んだ。



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