最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 パーキングまでの僅かな間、緊張してまともに話せなかったが、その分鞠花は心の中で盛大に独り言を呟いていた。

(何も考えず助けた仔猫が、見るも綺麗な美猫に育ったってこんな感じなのかな……)

 SNSでたまに、拾った猫のビフォーアフターの写真を見る。

 ペットを飼いたくても飼えない鞠花は、SNSで動物の写真、動画を見て癒やしを得ていた。

(もっとも、修吾さんは仔猫なんて可愛いもんじゃないけど……)

 チラッと見た彼は、見つめ合うと赤面してどうにかなってしまいそうな、非常にいい男だ。

 芸能人と言われてもおかしくない美丈夫と、冴えない自分が食事をするのだと思うと、緊張で足の運びがギクシャクしてしまう。

 パーキングに近付くと、一台の車のヘッドライトが点いてエンジンがかかる。

 その車を見て、鞠花は心の中で悲鳴を上げた。

 車についているエンブレムは、知識の浅い鞠花も知っている、ドイツの有名な会社のものだ。

「あ、あれ? 誰か乗ってます……?」

 運転席には誰かが乗っていて、ドアが開くと五十代の男性が出てきた。

「アルコールを飲むと運転できないので、運転手に頼みました」

(すご……)

 どうやら修吾は運転手を雇える金持ちらしく、ますます冷や汗が出てくる。

「こんばんは、西城さま」

 車に近づくと運転手に挨拶をされ、鞠花は「お世話になります」と頭を下げる。

 二人が後部座席に乗ると、運転手はドアを閉めてくれた。

 さすがドイツの高級車なだけあり、内部は普通の国産車よりゆったりとしている。

 おまけに車だというのに、前の席の背もたれにはディスプレイがあり、シートの横には飛行機のようにテーブルが内蔵されている。

 他にもドリンクホルダーや小さな冷蔵庫もある上、革張りのシートはリクライニングするようになっていて、フットレストまでついている。

(す、すごい……)

 見とれていると修吾がシートベルトを締めたので、慌てて鞠花もそれに倣う。

 やがて車は静かに走り出した。

「今日は忙しい中、誘いに応じてくれてありがとうございます」

 改めて挨拶され、鞠花はペコリと頭を下げる。
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