最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「いえ! こちらこそ沢山高価な贈り物をしていただいて……、返ってすみません」

「先ほども言いましたが、命を救われた礼としては安すぎるほどなので、本当に気にしないでください」

 修吾がセレブなのは車からも分かったので、これ以上あの贈り物について申し訳ないと思っても、話は平行線を辿るだろうと感じた。

「それじゃあ……、ありがたくいただきます」

「ええ、そうしてください」

 鞠花が引き下がったからか、修吾は機嫌良さそうに頷いた。

「フレンチを予約したのですが、アレルギーや苦手な食べ物はありませんか?」

「大丈夫です。何でも食べられるのが密かな自慢だったりします」

 ぐっと小さく拳を握って笑うと、修吾も薄闇の中で「頼もしいですね」と笑い返してくれた。

「……あのあと、傷は大丈夫ですか? 病院や警察に行きましたか?」

 鞠花はずっと気にしていた事を尋ねる。

 刃物で襲われたとなれば、PTSDにもなりかねない。

 こうして平気なふりをしていても、「大丈夫」と自分に言い聞かせて虚勢を張っている場合もある。

 そしてあとからジワジワと恐怖が心を蝕み、毎日の生活が脅かされていくパターンを多く知っていた。

「大丈夫です。人に襲われた傷だから大事(おおごと)に捕らえがちですが、鞠花さんも分かっている通り、実際は大して深い傷じゃありませんし」

「ちゃんと眠れていますか? 怖かったでしょう」

 半ば看護師として尋ねると、修吾は意外そうに目を見開き、破顔した。

「ありがとうございます。立派な大人ですから、大丈夫ですよ」

 彼は何でもない事のように言うが、鞠花としては彼の態度の奥に隠された本音がある気がしてならない。

 思わず修吾の横顔を見つめると、彼はその視線に気付いて小さく溜め息をついた。

「お気づきかもしれませんが、俺は経営者です。俺個人の素行もあまり褒められたものではなかったので、人の恨みを買う事には慣れているんです。友人からも冗談交じりに『いつか刺されるぞ』と言われていたほどで、襲われた事に大して動揺していません」

 想像通り、修吾は社会的地位のある人だった。

 だからといって人から恨まれるのが当たり前と聞いても、あまり釈然とこない。

 黙っていたからか、修吾は遠慮がちに尋ねてきた。

「引きましたか?」
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