最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「いえ! まるで違う世界の話なので、大変そうだなと思って……」

 話しているうちに、車は白い西洋風の建物の前に着いた。

 二人が降車すると、店の者が外に出て「大井(おおい)様ですか?」と尋ねてきた。

(修吾さん、大井さんって言うんだ)

 鞠花は格式高そうな店を前に、緊張して深呼吸をする。

 今までフレンチのコース料理を食べた事がないとは言わないが、テーブルマナーが身についているとは言いがたいので、失敗しないか心配だ。

 タキシードを着たスタッフに「どうぞお入りください」と先導された鞠花は、覚悟を決めて歩き始めた。





 席に案内されるまでの間、二人はサーモンピンクの壁に白い椅子が置かれたウェイティングルームに通された。

 まるでヨーロッパの城にいるようで、室内には暖炉まである。

 座っている椅子もロココ調と言うのか、お姫様が座るような椅子だ。

 室内には二人と同じように席に案内されるのを待っている客がいるけれど、自分と比べると彼らのほうがずっと場慣れしているように見えた。

「な、なんだか照れくさいですね」

 鞠花は居心地の悪さを誤魔化すために、冗談めかして言う。

「女性ってこういう雰囲気、好きじゃないですか?」

 修吾はこのような店に慣れているようで、現実離れした場所にいても様になっている。

「憧れてはいますが……。憧れと現実は別物と言いますか……」

 テーマパークに行った時は、非日常を満喫するためと割り切って、メルヘンな世界を思いきり楽しむ。

 けれど今は日常の延長なので、一般人の自分がとても浮いている感覚が強い。

 緊張を誤魔化すように頻りにピアスを弄っていると、それを見た修吾はクスクス笑った。

「じゃあ、慣れるようにこれからも色んな店に行きましょうか。たまには焼き肉やグリルレストランもいいですね。俺は最近和食にも嵌まっていて……」

「え、えっ? これからって……」

 今日食事を終えたらそれでお終いだと思っていたので、今後の話をされた鞠花は心底驚いて目を見開く。

 その反応を見て、逆に修吾も驚いたようだ。

「えっ? 今日限りのつもりだったんですか?」

「えっ?」

 二人はお互いに目を丸くして見つめ合い、しばし黙る。
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