最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「これで〝お礼〟がすべてと思われたら、困るんですが……」

 けれど意味深な事を言われ、鞠花は戸惑う。

「ですが、これ以上の事なんて……」

 高級な料理をいただき、特別扱いされ、十分に贅沢な気持ちにしてもらった。

「広い家に住みたくありませんか? 服もコスメも靴もバッグも、望む物を買って差し上げます」

 とんでもない提案をされ、鞠花は目を丸くする。

「どうしてそうなるんですか?」

「……だって、女性はそういう物が好きでしょう? それともジュエリーが好き?」

 目を丸くした修吾は、自分の言動がおかしいと理解していないようだ。

(お金持ちだと、人に物を買い与えるのが〝普通〟になるのかな)

 鞠花は一見失礼とも言える事を考えたあと、自分と彼の価値観の差を伝え、きちんと線引きしようと思った。

「お気持ちは嬉しいです。ですが私は働いていますし、欲しい物があれば自分で買います。高価な物を使う事に慣れてしまえば、生活水準を落とすのに苦労します。私は今の生活に満足していますし、身の丈に合わないものを理由なく買ってもらいたいとは思いません。今回は〝お礼〟との事で食事に応じましたが、それ以外の物はいただけません」

 鞠花は彼を傷つけないように言葉を選び、けれどハッキリと断る。

 修吾はポカンとした表情で彼女の言葉を聞き、やがてノロノロと尋ねてきた。

「……欲しくないんですか?」

 その様子を見て、きっと今まで彼と付き合った女性は、喜んで贈り物をもらっていたのだろうな、と感じた。

 気持ちは分かる。

 誰だってイケメンが何でも買ってくれると言ったら、自分が特別な女性になったように思え、万能感に駆られて言葉に甘えようとするだろう。

 でもそうやって人に依存して、いつか関係が終わった時に大きな喪失感を得るのは、与えてもらった側だ。

 その時に修吾が人に襲われた事を思いだし、彼に恨みを抱く人がいてもおかしくないと感じた。

 けれど彼は生まれつきのセレブで、与えられて捨てられる側の人の気持ちをあまり分からないのかもしれないとも思った。

 修吾は悪い人ではないが、根本的に一般人と考え方が違うのだ。

 鞠花はそれも踏まえて、きちんと自分の気持ちを伝えた。
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