最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 けれどリップ一本で済むはずがなく、ベースメイクに使う日焼け止め、下地、ファンデーションにパウダー、ブラシ、加えて「お肌を整えたほうが綺麗にメイクできると思います」と、基礎化粧品も一番高価なラインを揃える事になってしまった。

 しかもそのブランドは国内の最高峰ブランドなので、結果的に他の物を買うより高くついてしまったかもしれない。

 修吾は「鞠花は無欲だな」とニコニコ笑っていたが、当の本人は胃が痛い思いをしていた。

 商品は後日鞠花が家にいる時に宅配してもらう事になり、二人はディナーのために銀座四丁目の神戸牛料理店へ向かった。





 個室に入って飲み物を頼んだあとにコース料理が出てきたが、さすが神戸牛料理店を名乗るだけあり、牛肉がふんだんに使われた料理に圧倒された。

 先付は牛肉とウニ、山山葵を合わせた物、超高級なコンビーフのユッケ風などだ。

 続いてサクサクのカツサンド、神戸牛のタルタル仕立て、サーロインステーキにしゃぶしゃぶと、カロリーを気にし始めたら終わりだと感じた。

 締めのご飯ものには牛すじ肉を使った特製カレーと、牛すじ出汁のそうめんが出された。

 満腹になるまで牛肉を食べたあとは、さっぱりとした季節のフルーツと葛切りをいただいた。

「あぁ、美味しかった……。体重計乗るの恐い。……でもご馳走様でした。凄く美味しかったです」

 個室の掘りごたつに座っていた鞠花は、お腹をさすってお礼を言う。

「美味かった?」

「すっごく美味しかったです! こんなの初めて」

 肉なのに口の中で溶けてなくなる食感は生まれて初めてで、自分がいつも食べているスーパーの牛肉とは大違いだ。

 それでも、鞠花が牛肉を食べる時は、少し奮発した特別な時だ。

 けれど牛肉にもランクがあり、頂点にある肉はスーパーに出回っている物とまったく違うと思い知った。

「はぁ……。幸せ……」

 目を閉じてホウ……と息を吐いた鞠花を、修吾は優しい目で見ている。

「こんな事でそんなに『幸せ』って言ってくれるなら、これからもどんどんご馳走したくなる」

「ふふ、たまーにでいいですよ。贅沢病になっちゃいますし、体重も危ないです」

「贅沢病か……」

 修吾はしみじみと呟き、苦く笑う。
< 34 / 65 >

この作品をシェア

pagetop