最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「嘘に聞こえるかもしれないけど、とても真剣に向き合っている。信じられないかもしれないが、鞠花と出会ってから他の女性とは会ってない」

 視線を上げると、修吾の熱っぽい目と視線がかち合った。

「っ…………わ、私……」

 ここまで想われていたと知らず、鞠花は俯いて言葉を迷わせる。

 前の彼氏と別れて二年が経ち、色恋とは無塩の生活を送ってきた。

 修吾の事は素敵な人と思っていたが、まさか彼にここまで真剣に想われていると予想せず、戸惑いながらもときめいていた。

 だが、本当に彼の言う事を信じていいのか分からず、鞠花は返事に窮している。

「……嫌か? 俺を信用できない?」

 言いながら、修吾は鞠花の足の指に己のそれを重ねる。

 なぜ手を握るより、ずっと卑猥な事をされているように思えた。

 鞠花は覚悟を決め、顔を上げる。

「……失礼な質問をしていいですか?」

「何でもどうぞ」

「……一回抱いて満足したら、それで終わりになりませんか?」

 鞠花はそう尋ね、彼の真意を測るように目を見つめる。

 本当なら、「付き合いたい」と言ってくれた人に、こんな事は聞いてはいけないのは分かっている。

 修吾は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得した表情で笑った。

「ならない。確信して言える。今は段階を踏んで慎重に言動を選んでいるが、もっと思い切った事を言うなら、鞠花となら結婚してもいいと思ってる」

 話が飛躍して結婚と言われ、鞠花は目をまん丸にして驚く。

「こんな風に他人に価値観を変えられたのは初めてなんだ。うっすら分かっているだろうが、俺は最低な人間だった。そんな俺に、鞠花は誠実さと常識を教えてくれたし、スペックだけで判断しなかった。俺は人を簡単に信用しない。でも、鞠花の事は直感で『信じていい』と思ったんだ。……こんな事一度もなかったから、自分でも呆れているんだが」

 修吾は三十四歳らしいが、彼の育ってきた環境を思うと、鞠花にとっての常識がとても珍しい考えに映っているのかもしれない。

 今の歳になるまで〝普通〟に気付けなかった彼に同情しつつも、これから彼が変わりたいと願うなら、その手助けをしたいと思った。

「……じゃあ、信じます」

 鞠花は微笑み、いつか捨てられる覚悟を持ちつつも、今は修吾を信じようと心に決めた。



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