最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 入ったのは日比谷にある五つ星ホテルだった。

 生まれて初めて入るスイートルームを一通り満喫したあと、裸を見られるのは恥ずかしいからと、初回はまず一人で風呂に入らせてもらった。

 東京の夜景を見下ろしながらジェットバスに入る体験はとてもゴージャスで、それだけで満足してしまいそうだ。

 けれどここに来たのは修吾に抱かれるためだ。

(エステとか行けば良かった)

 シャワーブースで丁寧に髪と体を洗った鞠花は、バスタブで温まりながら溜め息をつく。

 修吾とデートするようになって、同僚にボディケアの方法を尋ねた。

 自己投資している人はエステに通っているそうだが、とりあえずお手軽にできるケアという事で、フェイスパックやボディスクラブなどをしてきた。

 幸いなのは、全身脱毛済みだという事だ。

「肌……、気持ちいいって思ってくれたらいいな」

 自分の腕や太腿を撫でると、「悪くない」と思える手触りだ。

 とはいえ、修吾の周囲にいる素敵な女性なら、脱毛やセルフケアは当たり前、エステも当然行っているという人が多いように思える。

(顔の見えない〝誰か〟と比べ始めたら、キリがないな)

 鞠花は溜め息をつき、パシャッと肩にお湯を掛ける。

(あんまり待たせても悪いから、そろそろ出よう)

 バスタブから出た鞠花は丁寧に体を拭き、今日のために用意した下着をつける。

 有名ハイブランドのアメニティを恐る恐る使い、ドライヤーで髪を乾かし、体の火照りが収まった体にバスローブを羽織った。

「お待たせしました」

 リビングに戻ると、修吾はオットマンに足をのせて水割りを飲んでいた。

「もっとゆっくりでも良かったのに。俺も入っていいか?」

「どうぞ」

「ミニバーの飲み物は自由に飲んでいいよ」

「はい、お気遣いありがとうございます」

 修吾は鞠花に微笑みかけたあと、バスルームに向かった。

 鞠花はシャンデリアの下がったラグジュアリーなリビングを見回し、窓辺に歩み寄って夜景を眺める。

 やがて彼女は溜め息をつくと、厚意に甘えて飲み物を飲む事にした。
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