最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 ミニバーから水のペットボトルを出した鞠花は、リビングのソファに座る。

(男の人に抱かれるの、久しぶりだな)

 そう思うと、改めてドキドキしてくる。

 ディナーからホテルまでは、あっという間の展開だった。

 彼に抱かれる事を受け入れたものの、正直冷静に今の状況を把握できていない。

 別にアブノーマルな事を望まれる訳ではないだろうし、二十代なら大抵の人はセックスをしているだろう。

 二年前に別れた元彼とは、大きな喧嘩はしなかったし、セックスに問題もなかった。

 だがまったく無問題で気持ち良くなれていたかと言われると、語弊がある。

 元彼とイチャイチャするのは好きだったが、デリケートな部分に触られると痛みを感じてしまった。

 同じ愛撫をしても、女性によって感じ方が違う。

 恐らく、自分はあまり行為に慣れていないから、刺激を受けても気持ちいいと思えないのだろうと思っていた。

 だから修吾に抱かれても、気持ち良くなれる自信がない。

 修吾に不快感を与えないよう努力するつもりだが、経験豊富そうな彼に面倒な女と思われるのは避けたい。

(もっと色んな人と付き合えば良かった。……と思うのは、多分違うんだろうな。だって積極的に彼氏を見つけたいと思えなかったし、そんな状況で付き合っても相手に嫌な想いをさせていた。……今は修吾さんだから付き合おうと思えているけど、こんな時に経験不足がネックになるなんて……)

 鞠花はソファの上で膝を抱え、深い溜め息をついた。





 どれだけそうしていたのか、トントンと肩をつつかれた鞠花は、ビクッとして顔を上げる。

「っ……、はい!」

 いつの間にかウトウトしていたようで、彼女は素っ頓狂な声を上げて周囲を見回す。

「疲れてる? 大丈夫か?」

 目の前にはバスローブを羽織った修吾がいて、気遣わしげな目を向けていた。

「あ、いえ。大丈夫です」

「なら良かった」

 微笑んだ彼は、手に持っていた水のペットボトルを、ゴッゴッ……と喉を鳴らして飲んでいく。
< 38 / 69 >

この作品をシェア

pagetop