最低で大嫌いなあなた、結婚してください
(あ……。喉仏)

 水を飲む修吾を見た鞠花は、上下する喉仏を見て彼が男性なのだと改めて意識した。

「……できる?」

 修吾は空になったペットボトルをテーブルに置き、尋ねてくる。

 彼はそう問う事で「嫌ならここで引き返してもいいよ」と逃げ道を示していた。

「……大丈夫です」

 立ちあがった鞠花は、まっすぐ彼の顔を見られないながらも、ハッキリとした声で返事をする。

「じゃあ……、おいで」

 差し出された手は、大きい。

 鞠花は節くれ立った手を見て胸を高鳴らせ、自分の手を重ねた。





 鞠花はおずおずとキングサイズベッドにのり、どうしたらいいか分からず正座した。

 修吾はリラックスした様子でベッドに座り、指の背で鞠花の頬を撫でてくる。

 やがて修吾は鞠花のロングヘアを撫で、サラサラと手で梳っていく。

 元彼にもこんなに優しく扱われた事はなく、鞠花は戸惑って彼を見る。

「どうした?」

 彼女の視線に気づいた修吾は、ニコッと微笑む。

「……すぐ始めないんだなって思って……」

 すると彼は相好を崩す。

「せっかくのご馳走なのに、がっついたら勿体ないだろう? 料理だってまず美しい盛り付けを賛嘆し、口に入れたあとも呑み込む前に香りを楽しむ。女性を抱ける状況にあるからといって、すぐにがっつくのは余裕のない奴のする事だ。女性は欲を満たすための存在じゃなく、ちゃんと心のある〝人〟だからな」

 修吾は鞠花を見つめて言い、彼女の頭を撫でる。

 頭を撫でられるなど、子供の頃以来ない。

 まるで「甘えていいんだよ」と言われているように思えた鞠花は、ずっと「一人で頑張らないと」と張り詰めさせてきた心を震わせる。

 急に泣いてしまいそうになった鞠花は、俯いて唇を噛む。

 すると修吾は彼女の心を見透かしたように、優しく囁いてきた。
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