最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「甘えていいんだよ。泣いてもいい。セックスは体をあます事なく見せるけど、相手の心にも触れる行為だと思ってる。……鞠花が俺を信頼してすべてを委ねてくれたら、きっと二人とも気持ち良くなれると思う」

 修吾の言葉が、やけに胸に響いた。

 元彼と修吾を比べる必要はないが、自分は元彼に甘えられなかった事を再確認した。

 鞠花は両親がいない事から、常に気を張っていて「きちんとしないと」「しっかりしないと」と思っていた。

 彼のだらしない面を見ては「仕方ないなぁ」と思い、それとなく注意していた。

 時々『お前って母親みたい』と言われていたのは、彼の望むように甘えられない事への皮肉だったのだろうか。

 ――申し訳ない。

 今さらになってズシッと情けなさと悲しみが押し寄せ、涙が零れる。

「……っごめ、……なさ……っ」

 鞠花はこみ上げたものを堪えられず、小さく嗚咽し始めた。

 修吾は彼女の体を抱き締め、ベッドのヘッドボードにもたれかかって包み込んだ。

「どうして?」

 耳元で穏やかな声が聞こえ、鞠花はしゃくりあげながら言い訳をする。

「私……っ、一人で頑張らないとって思って、……元彼に可愛くない態度しか取れなかった……っ。『母親みたい』って言われて、……っ当時は『しっかり者』って褒められてるんだなって思ってたけど……っ、そうじゃ、なかった……っ」

 修吾は鞠花の背中をトントンと叩いてあやし、こめかみにキスをする。

「俺には甘えられる?」

 小さな声で尋ねられ、鞠花は無言で頷いた。

 修吾は元彼より付き合いが浅いのに、一緒にいると強い安定感を得られる。

 彼がハイスペックだからと言ったらいやらしいが、女性にガツガツしていないし、経済的にも安定しているから、元彼にはない落ち着きがあるのだと思う。

「……ご両親が亡くなった事について、今はまだ深く聞かない。でも今までよく頑張ってきたな」

 彼に抱き締められていると、胸板越しに修吾の声が伝わってくる。

「看護師さんってただでさえ大変な仕事なのに、鞠花はよく頑張ってきたよ」

 修吾の言葉が、まるで慈雨のように心に染み入ってくる。

 ――そうだ。

 ――私はこうやって認められて、褒められたかったんだ。

 ――両親を喪ってしまった事を、哀れまれたい訳じゃない。

 ――ただ、自分の頑張りを認めてほしかったんだ。
< 40 / 77 >

この作品をシェア

pagetop