最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「今回はどうぞ宜しくお願いいたします」

 夜になり、祥吾が向かった料亭で会食をしたのは、馴染みの大手飲食企業の社長だ。

 金融業をしていると、当たり前に企業から融資の相談を受ける。

 だからこそ祥吾におもねる人は大勢いて、接待を受ける事が多々あった。

 美しい器に入れられた旬菜から会席コースが始まり、祥吾は初夏らしいホワイトアスパラの一口豆腐を口に入れて微笑む。

 酒は一本数万円する日本酒で、フルーティーな味わいが楽しめる。

 究極の食中酒として知られている高級な酒を、祥吾は遠慮なく飲んでいた。

「ところで、祥吾さんはいまだ独身を貫かれているのですか?」

 イサキの雲丹焼きを食べ終えた頃、接待相手がどこか粘ついた笑みを浮かべる。

(噂の孫娘でも推してくるのかな)

 面倒だなと思っていると、案の定彼は、自分の孫娘が身内のひいき目なしに見ても可愛いと、デレデレした顔で語り始める。

「そろそろうちの孫娘も、結婚を考える年齢になっていまして」

「そうですか。それは大変ですね。良い方が見つかるのを願っています」

 サラリとかわす祥吾の言葉に、取引先の社長は苦く笑う。

「うちの孫娘に祥吾さんの話をしたら、『とても素敵な方』と大層気に入ったようでして」

 案の定の事を言われ、祥吾は曖昧な笑みを浮かべた。

「生憎、私はまだ身を固めるつもりはありません。最終的には両親や祖父母が納得した女性と……となるでしょうけれど」

 自分の後ろに両親、祖父母がいるとチラつかせると、彼も一筋縄でいかないと察したらしく、大人しく引き下がった。

 そのようなやり取りに慣れている祥吾はタダ飯を美味しくいただき、料亭をあとにした。
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