最低で大嫌いなあなた、結婚してください

出会いは殺人未遂

 転機は彼が六本木に住んでいる愛人宅まで遊びに行き、朝方に西麻布にある自宅に戻ろうとした日曜日の早朝だった。

 まだ人通りの少ない道を歩いて適当にタクシーを拾おうとした時――。

 背後から足音が聞こえていたが、ここは東京なのでただの通行人かと思っていた。

 ――が、

 タタッとその足音が速まったと思った時、祥吾は嫌な予感を覚えて振り向いた。

 その瞬間、男か女か分からない、フードをすっぽり被った全身黒ずくめの人物が、ブンッと何かを振り回した。

「わっ!」

 祥吾は一瞬体を引いて〝それ〟から逃れる。

 瞬間、相手が包丁を持っていると理解して血の気を引かせた。

 身を躱したと思っていたが、包丁の切っ先がビッと胸板から二の腕を切り裂き、Tシャツが破れてその下の皮膚から血が滲み出る。

 恨みを買った覚えは――、ありすぎて〝どれ〟なのか分からない。

 数え切れないぐらい女を寝取ったし、土下座して頼み込む取引先相手に嫌みを浴びせた。

 失敗して土下座をした部下の頭を踏みつけ、靴を舐めさせた事もあった。

 生まれた時から成功者の人生を歩み、傲慢に育った祥吾は、人を強く惹きつけながらも強く恨みを買っていた。

(やばい! 殺される!)

 彼は一瞬にして、自分が通り魔に襲われた事件が、新聞や週刊誌の見出しになる妄想をする。

 その時、ピィィイィッ! とホイッスルの音が聞こえた。

 ――かと思うと、防犯ブザーがつんざくような音を立てた。
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