最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 今まで誰も鞠花が頑張っている事を認めてくれなかった訳じゃない。

 祖父母は常に心配してくれたし、親戚もたびたび連絡をくれ、近況を聞き『大変だと思うけど、頑張ってね。いつでも力になるからね』と言ってくれる。

 けれど親戚はあくまで親戚で、常に側にいてくれる訳ではない。

 彼らには彼らの家庭があり、毎日の生活がある。

 同僚や学生時代の友人たちも、彼らなりの現実に立ちむかっていて、一方的に甘えられる存在ではない。

 どちらかといえばお互い愚痴を吐いてスッキリし、「よし、頑張るか!」と言い合う戦友のような関係だ。

 祖父母が親代わりだったとはいえ、今はもう高齢になった彼らに心配を掛け、頼るのは違うと思っている。

 祖父母には『社会人として上手くやっているから、心配しないでゆっくり過ごして』と言いたい。

 だから修吾のように鞠花のために時間を作り、こうやって抱き締めて慰めてくれる人は初めてと言って良かった。

 人の温もりが、頭や背中を撫でてくれる手が、こんなにも胸を苦しくさせるものとは思わなかった。

 鞠花自身、病院で『手当てと言うんですよ』と言って、小さな子供や高齢者がつらそうにしている時、背中をさすり、手を握った事はある。

 だから人の手の温もりが、どんな言葉より効果がある事を分かっている。

 けれど、彼女にそうしてくれる人はいなかった。

「……っ、あり、――が、と、……ぅ……っ」

 修吾は泣いてお礼を言う鞠花の頬を両手で包み、上を向かせる。

「鞠花はいい子だよ」

 優しく細められた彼の目に、泣いている自分の顔が映る。

 今までこんなふうに弱い面を晒した事のない鞠花は、彼の首に手を回し、震えながらキスを求めた。

 修吾は何も言わず、それに応える。

「ん……っ、……ぅ」

 柔らかな唇を感じ、優しいキスに脳髄がとろけていく。

 おずおずと彼の唇を舐めようとすると、舌先が触れ合った。

 鞠花は驚いて舌を引っ込めたが、修吾は性急に求めず、そのあともじっくりと彼女の唇をついばみ、上唇に下唇と舐め、音を立てて吸った。

 チュプ、チュ……と、小さな水音が静かな室内に響く。

 修吾からは深く官能的な、それでいて微かに甘い香りがする。
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