最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 ハッとそちらを見ると、少し離れた場所で一人の女性が防犯ブザーを手にしていた。

 彼女の首元では、防災用ホイッスルが朝陽を浴びて銀色に光っている。

 女性はジョギング中だったらしく、白いTシャツにアームカバー、黒いレギンスにホットピンクのジョギングシューズを履いていた。

「警察を呼びますよ!」

 女性は声を張り上げ、ウエストバッグからスマホを取りだす。

 それを見た黒ずくめの人物は舌打ちをし、走り去ってていった。

「……マジか……」

 遅れて祥吾はドッと疲れを覚え、植え込みのあるブロックに座り込む。

「大丈夫ですか?」

 女性は心配そうに声を掛け、駆け寄ってきた。

(痛ってぇ……)

 傷の痛みに顔をしかめ、それでも礼を言わなければと思って顔を上げると、女性は二十代半ばの美人だと分かり、あれだけ毅然とした態度をとった事を意外に感じた。

 美人と言っても、祥吾の知っているメイクをばっちりして流行の服に身を包んでいるタイプとは違う。

 今は運動中という事もあるから、彼女の私服姿は分からない。

 けれど第一印象で、とても健康的で清潔感のある女性だと思った。

(磨いたら化けるタイプだな)

 心の中である意味失礼な〝ジャッジ〟をしつつ、祥吾は女性に礼を言う。

「ありがとうございました。あなたは命の恩人です」

 祥吾は女性に微笑みかけたが、浅いがしっかり痛みを訴えてくる傷に表情を歪める。

 と、女性は彼に顔を近付け、傷の具合を見てきた。
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