最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「社長、どうされたのですか。このところお仕事に身が入っていないと、各方面からお叱りの言葉を受けています」

 テレビ局から会社に戻る間、車の中で東に叱られた。

 祥吾はしばらくボーッとしていたが、ボソッと呟く。

「……結婚したいと思った女に、逃げられた」

「はぁ?」

 東は「そんな話は初耳だ」という様子で目を丸くする。

 そして最近彼が自分を求めてこない事や、祥吾の行動パターンを思い出して合点がいったのか、大きな溜め息をついた。

 車内には沈黙が落ち、祥吾は投げやりな雰囲気を醸し出す。

 東も何も言わず、会社に着くまで車内は静まりかえったままだった。



**



 一週間後の金曜日の朝、いつものように東が祥吾の自宅まで迎えに来た。

「社長、おはようございます」

 合い鍵で部屋に入ってきた東は、カーテンを開けてキビキビと動く。

 東はまだベッドに入っている祥吾と、ベッドサイドにあるウィスキーの空き瓶とグラスを見て大きな溜め息をついた。

「またこんなに飲んで……」


「……仕事はする」

 下着一枚でキングサイズのベッドに寝ていた祥吾は、うめきながら寝返りを打つ。

「そんなにその女性の事が好きだったんですか?」

 東に尋ねられ、祥吾は薄く目を開いた。

 ――前なら隣に鞠花がいたのに……。

「……好きだ……。本気で、……惚れてる……」

 腕で目元を覆った祥吾は、東がどんな表情をしているかまったく分かっていなかった。

 勿論、東がギリ……と歯ぎしりをしたのにも気付いていない。

「『惚れてる』って、現在進行形なんですね」

「……ああ……。――――あっ……?」

 その時、腹部にドスッと何かが突き刺さった。

「っ――――ぁー…………。……ぃ、てぇ…………」

 ノロノロと右脇腹を見ると、果物ナイフの柄が生えていた。
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