最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「約束ですよ?」

 その声音は〝いつもの〟鞠花と同じだった。

「……ああ」

 ようやく彼女に許してもらえたのだと思った祥吾は、潤んだ目でしっかりと頷く。

 本当の意味で許されたとは思っていない。

 だが、この素晴らしい女性と子供を失う事は避けられたと思っていい。

 鞠花は立ち上がると祥吾前に膝をつき、そっと手を握る。

「私には両親がいません。あなたのような社会的地位のある人が結婚するのに、向いていない女です。周囲の人に認めてもらうために努力しますが、あなたもご家族に話を通してもらえたらと思います」

「分かった。何があっても鞠花を守る。絶対に裏切らない」

「信じています」

 鞠花は聖母のように微笑み、祥吾の小指に自分のそれを絡めた。

「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指きった」

 彼女は歌いながら軽く手を上下に振り、最後に小指を離してからふわっと微笑んだ。

 鞠花は床の上に座ったままぼんやりとし、祈るように目を閉じた。

 祥吾は彼女がツッ……と涙を流すを見て、鞠花が何を思ったのか理解した気がした。

(……きっと心の中で、ご両親に打ち明けているんだろうな)

 そう感じた祥吾は、見捨ててしまった彼らのためにも、必ず鞠花を幸せにしてみせると誓った。



 ――変わらなければ。



 強く、強く己に言い聞かせる。



 正しい道を教わらないクズは、いつまでもクズのままだ。

 けれど改心したクズなら、間違えたあとでも正しい道を歩めるかもしれない。

 自分がクズである事は、どう足掻いても変わらない。

 ならばただ、より善い人間となるために足掻き、進まなければ。



 クズ、最低、極悪人、人の子ではない、血の通っていない人間――。

 今まで数多くの罵り言葉を受けた、外見だけ美しいモンスターには今日で終わりを告げる。

 周りがすぐに赦してくれなくても、一生周囲に頭を下げ続けてでも、自分の見いだしたたった一つの真実を守り抜いていかなければ。
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