最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 鞠花の両親がかつて小さな会社を経営しており、かなえ銀行からの借り入れが叶わず、祥吾は追いすがる彼らに土下座をさせ、その頭を踏んで侮辱した事。

 その後、彼らは鞠花を残して自死し、彼女は〝鳳祥吾〟を恨んで生きてきた事も、包み隠さず話した。

 両親が様々な感情の籠もった目で鞠花を見た時、祥吾はキッパリと言う。

「俺と鞠花は、ご両親の事がまったく関係ない場で出会った。……前に早朝に包丁を持った奴に襲われたって話をしただろ? その時、ホイッスルを鳴らして犯人を追い払い、傷の手当てをしてくれたのが鞠花だった。……そのあと、俺は〝大井修吾〟という仮名を名乗り、鞠花と惹かれ合った。……だが彼女はテレビに出た〝鳳祥吾(おれ)〟を見て、すべてを悟り、一時は何も言わずに姿を消した」

 両親は祥吾が廃人同然になった期間を思い出したのか、深く頷いた。

「興信所を使って彼女の居場所を探し出した俺は、その時に真実を知った。負い目があるから償うために結婚するじゃない。勿論、贖罪の意味もあるが、彼女を愛して幸せな家庭を築き、まともな人間になる事で彼女に証明していきたいと思っている。……父さんと母さんがいつも頭を抱え、悩んでいたクズはもう卒業した。今後は鞠花とお腹の子のために、誠実に生きていく」

 強い意志の籠もった目を向けられ、両親は困惑した表情をする。

 やがて、母がおずおずと尋ねた。

「ご両親の事については私たちからも謝罪し、最大限のお詫びをしたいと思っています。……でも、祥吾に復讐するのが目的で近づいたなら……」

「母さん」

 祥吾は少し大きめの声で母を制し、きっぱり言い放つ。

「すべて俺が悪かったんだ。鞠花はそんな俺を赦し、更生の機会を与えてくれている。彼女は俺の恩人だ。万が一にも、鞠花が俺に復讐心を抱いているなんて考えないでくれ。鞠花に失礼だ」

 強い口調で言われ、母は「でも……」と言い淀む。

「心配してくれる気持ちは分かる。……だが鞠花は俺と結婚する条件として、俺が今まで横暴な態度を取った人全員への謝罪を求めた人だ。その禊を受けて、生まれ変わった気持ちで結婚したいと思っている。そう思わせるぐらい、彼女は俺を変えてくれた」

 鞠花は自分の言葉で伝えなければと思い、口を開いた。

「確かに仰る通り、以前の私は〝鳳祥吾〟さんに強い恨みを抱いていました。でも、偶然出会った〝大井修吾〟さんに恋をして、私は心の中にあった氷が溶けたように感じ、生まれて初めて人に愛され、大切にされる経験を味わいました」

 三人とも、彼女の話をまじめな表情で聞いていた。
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