最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 彼女の言葉を聞き、母は心を決めたようだ。

 今までの迷いを捨てた表情になった彼女は、顔を上げて鞠花に笑いかける。

「色々疑ってごめんなさい。鞠花さんを信じます。今言ったように、何か思う事があれば、何でもハッキリと教えてちょうだい」

「はい、遠慮なく。看護師ですので、こう見えて割と言う時はハッキリ言いますので。……それに、祥吾さんのご両親はいい人で優しく、息子さんを大切に思っているからこそ、祥吾さんが不幸にならないかご心配されているお気持ちは、十分に分かります。お気になさらないでください」

 それまで黙っていた父は、小さく溜め息をついて笑みを零した。

「……あなたは強い女性(ひと)ですね。祥吾の妻になるのに相応しいと思います。祥吾は仕事面ではしっかりしていても、心が弱いきらいがあります。そこを鞠花さんがしっかりとサポートしてくれ、二度と道を誤らないようにしてくださるなら幸いです」

 ようやく理解を得られた鞠花は、祥吾と顔を見合わせて笑う。

「これから、どうぞ宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくね」

 最初はぎこちなかった空気も、今はすっかり和やかなものになっていた。



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 その後、祥吾は仕事を続け、鞠花は一旦専業主婦として彼を家庭で支えた。

 本来なら結婚前の同棲期間として、ゆっくり愛を育むところかもしれないが、祥吾にはやるべき事がある。

 休日になると彼は北は北海道から、南は沖縄まで飛行機で飛び回り、詫びの菓子折を持って謝罪して回った。

 謝られた者たちの大半は謝罪を受け入れてくれたが、中にはどうしても許せずにいる者もいる。

 その時は鞠花も一緒に土下座をし、時に水を掛けられてまで許しを乞うた。

 東については祥吾を刺した加害者なので、おいそれと会う事はなく、裁判が終わったあと手紙を渡す事になった。

 仕事をしながら謝罪行脚をし、すべての禊を終える頃には一年が経った。
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