最低で大嫌いなあなた、結婚してください
 翌年の年末、仕事納めになる前に、祥吾は最後の一件に謝罪し終わった。

 新幹線に乗った二人は、達成感を抱きながら帰宅する。

「最後はいいお返事をもらえて良かったね」

 一年同棲する間に、鞠花の祥吾への口調は砕けたものに変わっていた。

「ああ。それにしても、俺が謝って歩いているって噂になってたんだな」

「随分と変わったから、みんな驚いたんじゃない?」

「違いない」

 二人は小声で会話をし、クスクス笑う。

 鞠花との結婚を決意し、謝罪行脚が終わる頃には、祥吾の性格はすっかり丸くなっていた。

 仕事は以前のようにバリバリこなすものの、社内改革を行ったあと、今では〝部下想いの社長〟と慕われているらしい。

 最初こそ、役員たちに「何を今更……」という態度を取られたそうだ。

 だが祥吾は社員が働きやすくなる方針を推し進めて実行するうちに、「最近の鳳社長はいい感じに変わったんだな」と受け入れてくれたみたいだ。

 秘書は、父の紹介でベテランの四十代後半の男性が後任となった。

 新しい秘書は父からも「言うべき事は遠慮なく言ってほしい」と頼まれているらしく、祥吾も「教わる事が多い」と嬉しそうにしていた。

 以前の彼なら〝秘書如き〟にもの申されたらクビにしていたかもしれない。

 けれど今は、自分のためを思って言ってくれる人と、そうでない人の区別はちゃんとついたようで、しっかりと言葉を受け止めて生かしている。

 一年が経ち、鞠花は二十七歳、祥吾は三十五歳になった。

 その間に第一子の男の子が生まれ、祥吾は無垢な存在を見て涙を流していた。

「生んでくれてありがとう、鞠花」

 自宅に戻ったあと、シッターに見てもらっていた我が子の顔を見て笑顔になった祥吾は、息子を抱っこして聖母のように微笑んでいる鞠花にキスをする。

「幸せになろう」

「必ずだ」

 微笑み合った二人の住まいには、結婚式関連の雑誌やカタログが沢山並んでいた。





 風呂から上がった祥吾は、ミネラルウォーターを飲みながら尋ねる。

「……禊は終わったけど、……鞠花は今の俺の事をどう思ってる?」

 息子の寝顔を覗き込んで微笑んだ祥吾は、ソファにいる鞠花の隣に座った。

 彼女は少し考えてから答えた。
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