最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「正直、ここまできちんと謝罪してくれるとは思ってなかった。自分で提案しておいて……だけど」

 忖度のない言い方をされ、祥吾は笑う。

「そう思うのは仕方ない。俺だって、以前のクズ(おれ)のままだったら、遠方まで向かって土下座するなんてあり得ないと思うし」

「そうやって〝昔の自分なら〟って思える時点で、祥吾さんはもうちゃんと禊をして変わる事ができたと思うよ」

「……そうかな」

 祥吾が照れくさそうに笑うと、鞠花は微笑んで彼の頭を撫でた。

「頑張りましたね。偉い、偉い」

「こら、子供扱いするなって。……これはこれでいいけど」

 祥吾が言ったあと、二人はクスクス笑う。

 やがて彼は婚約者を抱き締め、心からの想いを向けた。

「愛してる」

 鞠花に対して感じている想いをすべて伝えるには、あまりにシンプルで足りなすぎる言葉だ。

 けれどそれ以外に適切な言葉を思いつかない。

 鞠花は彼を抱き締め返して言う。

「祥吾さんは生まれついての御曹司で、人の頂点に立つべく育てられてきて、誰かに謝るっていう発想はなかったのかもしれない。みんなあなたを前にしたら、言う事を聞いて従って、気に入られて甘い汁を吸おうとするだろうから。……人は三十歳を超えたら、生き方を大きく変えるのは難しいと思ってる。そんな中、祥吾さんは私との約束を守りきってくれた。……凄く感謝しているし、こう言ったら偉そうだけど、見直した。……あなたは自慢の婚約者だよ」

 彼女の誠実な言葉を聞き、祥吾は心からの感謝を向ける。

「妊娠していたのに、今までの謝罪行脚についてきてくれてありがとう。本来なら俺一人の問題なのに、鞠花は『あなたの責任は私の責任』と言ってくれた。必ずしも全員に快く許された訳じゃないし、嫌な目にも遭ったのに、鞠花は最後まで付き合ってくれた。……中には身重の鞠花がいたから許してくれた人もいる。……君には感謝してもしきれない」

 祥吾は鞠花の手を握り、目を潤ませる。

「……君は泥沼に嵌まって抜け出す事を諦めていた俺を救い出し、清らかな水で洗い流してくれた。まるでヨハネの洗礼だ。……過去に犯した罪は変えられないけれど、これからは本当に生まれ変わった気持ちで頑張っていきたい」

 今はもう、本心から言っていると分かっている鞠花は、頷いて微笑んだ。
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