最低で大嫌いなあなた、結婚してください
「過去にどんな事をしても、反省したなら人は変わっていけます。あなたも、私も」

 そう言った鞠花の心には、昔のような激しい憎しみや怒りはもうない。

 祥吾の謝罪行脚に付き合ったのは、彼の性根を叩き直すには自分も一緒に行動しなければいけないと思ったからだが、一緒にあちこち回っていくうちに、鞠花自身も強くなれた気がした。

 全国津々浦々、色んな人に会いに行って謝り、話を聞いた。

 過去の祥吾は〝利益を得られるかどうか〟でしか人を見ていなかったが、百人人がいれば、百通りの人生があると思い知った。

 彼らに関わる人たちの話も聞き、恨み言や怒りだけでなく、中には失敗してどん底に落ちたあと、どうやってやり直したかという話も聞けた。

 祥吾としては、ただ怒りをぶつけられるよりも、どん底に落ちてもなお、腐って他人のせいにせず、自分の人生を懸命に生きようとする人の話のほうがずっと効いただろう。

 鞠花もまた、彼らの言葉を亡き両親の言葉と思って聞き続けてきた。

 怒りも悲しみも憎しみも、許す気持ちも『もう恨んでいませんよ』という言葉も、すべて両親が言いそうと思った。

 その言葉たちを受け入れるうちに、過去の憎しみに満ちていたもう一人の自分は、次第に小さくなって消えていった。

 自分の代わりに彼らが怒ってくれたのもあるし、過去を振り向かず、前を向いて進んでいる人たちを見ると、活を入れられた気持ちになった。

 一年にわたって色んな話を聞くうち、鞠花は完全に〝鳳祥吾の妻〟になっていた。

「私こそ、ありがとう。祥吾さんと過ごして、人として一皮剥けた気がする」

 すると彼は破顔した。

「まったく君には敵わないな」

 愛情と敬意に満ちた目を向けられ、鞠花は自然と笑う。

「この困難なミッションを乗り越えたあなたを尊敬してるよ。お疲れ様、祥吾さん」

 鞠花は彼を抱き締め返し、キスをする。

 チラッとベビーベッドのほうを確認した二人は、そのあと深いキスを交わしていった。



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