国を追われましたが、文官令嬢としてセカンドライフを送ります!
ふたりが次に向かったのは、カフェ・ド・リス本店だった。国立図書館に併設されている分店とは違い、大通り沿いのこちらにはオープンテラスも設置されている。
「すごく賑わっていますね」
「今は例の芋料理のフェア期間中だからね。特にこの本店は、テイクアウトのメニューも充実しているんだ」
席に案内されると、ロゼッタは早速メニュー表を開いた。『本日のおすすめ』の欄には、白芋のグラタン・完熟トマトの濃厚ソースがけと記されている。そちらをメインとして選び、グリーンサラダと紅芋のポタージュも注文することにした。
「ふう……」
お冷を口に含むと、ほんのりとした柑橘類の香りが広がった。ほんの少し果汁を加えているのだろう。爽やかな風味が心地よさを与えてくれる。
周囲のテーブルから漂う香ばしい匂いに、期待が膨らんでいく。ロゼッタは頬を緩ませ、料理が運ばれてくるのを待っていた。
ふと、10メートルほど離れたテーブルの人物が視界に入る。
パラソルの下でさらさらと揺れる銀色に、感情の読めない端整な顔立ち。その男はチョコレートパフェを食べながら、煌びやかなマダムたちと歓談している。
(あれは間違いなく、正真正銘のユーグさん)
先ほど雑貨店ですれ違ったのも、ユーグだった気がする。彼も休日を満喫しているようにしか見えないが、単なる偶然なのだろうか。
(ユーグさんって、熟女専門だったんだ)
年齢層の高いハーレムを眺めていると、「お待たせしました」と料理が運ばれてきた。
「美味しそうだね。ん? ……どうしたんだい、ロゼッタ?」
目を泳がせているロゼッタを、エドガーが怪訝そうに覗き込む。
「いえ、なんでもありません。冷めないうちにいただきましょう」
今のは見なかったことにしよう。
ロゼッタはユーグの存在を意識の外に追い出し、スプーンを手に取った。
トマトソースの爽やかな酸味が濃厚なホワイトソースのコクをきりっと引き締めている。ホクホクとした白芋を噛み締めると、中から優しい甘みが溢れ出す。サラダに使われている野菜は新鮮で、ポタージュは一口含んだ瞬間、紅芋の濃密な甘みが口いっぱいに広がった。
食後、ミラベルたちへのお土産にポテトチップスを買って、ふたりは店を後にした。王城の食堂でもお馴染みのメニューだが、このカフェオリジナルのコンソメやチーズといった数種類のシーズニングパウダーも一緒に選べるのが魅力だ。
「……そろそろ頃合いかな。お腹も膨れたことだし、図書館に向かおうか」
懐中時計で時間を確認すると、エドガーは小さく頷いてそう言った。ポテトチップスの入った紙袋を大事そうに抱え、ふたりで馬車に乗り込む。
馬車が緩やかに走り出すと、ロゼッタは不意に窓の外に目がいった。一台の馬車が悠然と追い越していく。乗車している人物を見た瞬間、思わず身を乗り出してしまう。
黙々とポテトチップスを食べているユーグだった。
(偶然って三度もある?)
この状況は流石にツッコミを禁じ得ない。ロゼッタはそっと前方を指差した。
「エドガーさん、今の馬車にユーグさんが……」
「ああ、ユーグのことかい? あいつは僕の護衛役でもあるんだ。姿が見えない時でも、どこかに潜んでいると思ってくれて構わないよ」
「じゃあ、雑貨店やカフェにいたことも?」
「まあね」
とても護衛しているようには見えないのだが。
「だけど、普通に追い越していきましたよ」
「彼には彼なりのロジックがあるようで、僕にもよくわからないんだよね」
ユーグに対する謎は深まるばかりである。
「はぁ……」
「今日は必要ないと言ったんだけどな。せっかくのふたりきりのデートなのに」
「えっ?」
「はは。ほら、着いたよ」
耳を疑うような発言にロゼッタが固まっていると、エドガーは軽やかな動作で馬車を降りた。そして「どうぞ」とロゼッタに優しく手を差し伸べる。
(きっと深い意味はないのだろうけど、心臓に悪すぎるわ)
胸の鼓動が収まらないまま、ロゼッタはその手を取って馬車を降りた。
久しぶりに足を踏み入れた国立図書館だったが、館内は何やらざわついている。見れば、ある一角に謎の長蛇の列ができていた。
「おや、ロゼッタちゃんじゃないか。久しぶりだね。変わりはないかい?」
親しげに声をかけてきたのは、以前、何かと彼女を気にかけてくれていた年配の司書だった。
「はい、おかげさまで。毎日楽しく過ごしています」
「それならよかった。ところで、君もルルーに会いに来たの?」
「すごく賑わっていますね」
「今は例の芋料理のフェア期間中だからね。特にこの本店は、テイクアウトのメニューも充実しているんだ」
席に案内されると、ロゼッタは早速メニュー表を開いた。『本日のおすすめ』の欄には、白芋のグラタン・完熟トマトの濃厚ソースがけと記されている。そちらをメインとして選び、グリーンサラダと紅芋のポタージュも注文することにした。
「ふう……」
お冷を口に含むと、ほんのりとした柑橘類の香りが広がった。ほんの少し果汁を加えているのだろう。爽やかな風味が心地よさを与えてくれる。
周囲のテーブルから漂う香ばしい匂いに、期待が膨らんでいく。ロゼッタは頬を緩ませ、料理が運ばれてくるのを待っていた。
ふと、10メートルほど離れたテーブルの人物が視界に入る。
パラソルの下でさらさらと揺れる銀色に、感情の読めない端整な顔立ち。その男はチョコレートパフェを食べながら、煌びやかなマダムたちと歓談している。
(あれは間違いなく、正真正銘のユーグさん)
先ほど雑貨店ですれ違ったのも、ユーグだった気がする。彼も休日を満喫しているようにしか見えないが、単なる偶然なのだろうか。
(ユーグさんって、熟女専門だったんだ)
年齢層の高いハーレムを眺めていると、「お待たせしました」と料理が運ばれてきた。
「美味しそうだね。ん? ……どうしたんだい、ロゼッタ?」
目を泳がせているロゼッタを、エドガーが怪訝そうに覗き込む。
「いえ、なんでもありません。冷めないうちにいただきましょう」
今のは見なかったことにしよう。
ロゼッタはユーグの存在を意識の外に追い出し、スプーンを手に取った。
トマトソースの爽やかな酸味が濃厚なホワイトソースのコクをきりっと引き締めている。ホクホクとした白芋を噛み締めると、中から優しい甘みが溢れ出す。サラダに使われている野菜は新鮮で、ポタージュは一口含んだ瞬間、紅芋の濃密な甘みが口いっぱいに広がった。
食後、ミラベルたちへのお土産にポテトチップスを買って、ふたりは店を後にした。王城の食堂でもお馴染みのメニューだが、このカフェオリジナルのコンソメやチーズといった数種類のシーズニングパウダーも一緒に選べるのが魅力だ。
「……そろそろ頃合いかな。お腹も膨れたことだし、図書館に向かおうか」
懐中時計で時間を確認すると、エドガーは小さく頷いてそう言った。ポテトチップスの入った紙袋を大事そうに抱え、ふたりで馬車に乗り込む。
馬車が緩やかに走り出すと、ロゼッタは不意に窓の外に目がいった。一台の馬車が悠然と追い越していく。乗車している人物を見た瞬間、思わず身を乗り出してしまう。
黙々とポテトチップスを食べているユーグだった。
(偶然って三度もある?)
この状況は流石にツッコミを禁じ得ない。ロゼッタはそっと前方を指差した。
「エドガーさん、今の馬車にユーグさんが……」
「ああ、ユーグのことかい? あいつは僕の護衛役でもあるんだ。姿が見えない時でも、どこかに潜んでいると思ってくれて構わないよ」
「じゃあ、雑貨店やカフェにいたことも?」
「まあね」
とても護衛しているようには見えないのだが。
「だけど、普通に追い越していきましたよ」
「彼には彼なりのロジックがあるようで、僕にもよくわからないんだよね」
ユーグに対する謎は深まるばかりである。
「はぁ……」
「今日は必要ないと言ったんだけどな。せっかくのふたりきりのデートなのに」
「えっ?」
「はは。ほら、着いたよ」
耳を疑うような発言にロゼッタが固まっていると、エドガーは軽やかな動作で馬車を降りた。そして「どうぞ」とロゼッタに優しく手を差し伸べる。
(きっと深い意味はないのだろうけど、心臓に悪すぎるわ)
胸の鼓動が収まらないまま、ロゼッタはその手を取って馬車を降りた。
久しぶりに足を踏み入れた国立図書館だったが、館内は何やらざわついている。見れば、ある一角に謎の長蛇の列ができていた。
「おや、ロゼッタちゃんじゃないか。久しぶりだね。変わりはないかい?」
親しげに声をかけてきたのは、以前、何かと彼女を気にかけてくれていた年配の司書だった。
「はい、おかげさまで。毎日楽しく過ごしています」
「それならよかった。ところで、君もルルーに会いに来たの?」