繭に守られて
「料理好きだよね」
「まーね。食べるのも好きだし」
凛音はダンボールから取り出したミキサーを台所へ持って行くと、スマホのレシピを頼りにガトーショコラ作りを始めた。
「では、僕達は勉強会始めましょうか」
「ふっ、良いだろう!」
「早く終わらせて、お菓子食べたい」
私はちょっと名残惜しそうに台所を振り返りながら、れんれんの方へ戻る。
リビングの座卓でお勉強。
机いっぱいにノートやら教科書やらプリントやらが散らばり、私はすでに諦めモードだ。
「……まだ何も始まってませんよ」
時計の針をぼーっと眺めていると、れんれんが静かにツッコむ。
「いや、気持ちがもう無理」
「主君として情けないぞ琴葉くん!」
ノゾミくんがビシッと指を差してくる。
「いや、よく考えて。数学なんか社会に出ても使わないじゃん。算数さえ分かれば生きていけるよ。Xを求めよなんか使わないよ」
「テストには使いますよ」
「うむ!」
「……えー、数字を文字にして考えるのって、頭こんがらがるじゃん」
ノゾミくんはペンを握ったまま、目をしばたたかせる。
「琴葉くん、覚悟を決めるんだ!この数学の山を征服するのだ!我が臣下として情けないぞ!」
「ノゾミくんは中間試験の数学のテスト何点だったの?」
「我が成績は下から二十二番目だ!」
「よっしゃ、勝った!」
嬉しくてガッツポーズする。
「私は下から二十四番目だよ!」
「な、なん……だと!?」
ノゾミくんがありえない!といったような表情で、ズザザと机から距離を取る。
「俺より、点数が良いのか……!?」
「崇めよ崇めよ。ノゾミくんより私の方が頭が良いのだ!」
「琴葉ちゃん、凄いね。天才だね」
パチパチと笑顔で手を叩くれんれんを見て、ノゾミくんは面白くないのか分かりやすく不貞腐れている。
それから二時間ほどの勉強会を終え、昼ご飯を済ませた後、私たちはスーパーへ向かった。
夕方の店内は、仕事帰りの人でごった煮返していた。
「今日の夜ご飯は何にしましょうか」
白衣姿でレジカゴを持つれんれんに、周りのおばさん達が「ドラマの撮影!?」ってギョッとしている。
「ルー余ってたから、カレーにしようよ」
「いや、ハンバーグだ!」
「ウチ、焼き鮭希望」
「見事にバラバラですね……」
「れんれん、飴買って」
凛音がれんれんの肘を引く。
「まだストックがあったはずですが……」
「あれはレモンといちご。ぶどうとメロン欲しい」
「駄目です」
「れんれんのケチ〜」
二人のやりとりを眺めていたら、ノゾミくんがクルッとこっちを振り向いた。
「琴葉くん!今のうちに欲しい物をカゴに入れるぞ!」
「そうだね!入れたもん勝ちだよね!」
二人がガッと手を組んで、材料を奪い合うようにカゴへ入れていく。
お肉、じゃがいも、キャベツ、キャラメル、牛乳、卵、パイ生地、などなど。
「二人共、落ち着いてください」
「買い物って楽しいね〜」
「うむ、共同戦線だな!」
ノゾミくんは真剣な顔でカゴの中を見つめる。
最終的に、全員の分の材料が揃い、カゴはパンパンになる。
「よし、これで夜ご飯とお菓子は完璧だ!」
「れんれん、支払いよろしく」
「分かりました」
れんれんは落ち着いた手つきでレジを済ませ、みんなの荷物をまとめた。
「凄いな、六時ぴったりに用意できるなんて……」
委員長が少し驚いたようにテーブルのお鍋を覗き込む。
「最近はドタバタしていましたもんね」
コップを並べてくれたれんれんも、どこか満足げだ。
「はーい、じゃあカレーは私がよそうから、お皿出してね〜!」
私は立ち上がって、お玉でカレーをぐるぐるとかき混ぜる。
「これ、何カレーなんだ?」
「よくぞ聞いてくれたな委員長!これは闇カレーだ」
「闇」
委員長が呟きながら、お鍋に視線が移る。
出しかけていたお皿を引っ込める。
「スーパーでどの食材を買うのかケンカになって、それなら全部入れちゃえってことで....」
凛音の申し訳ない気持ちの解釈に、委員長がゴクリと喉を鳴らした。
「一応聞いておくが、変な物は入ってないよな?」
「入ってないよ」
「隠し味に凛音ちゃんが何か入れていましたね」
「飴は駄目って琴葉に止められたからね」
「飴意外なら大丈夫か。琴葉、ナイス!」
委員長は親指を立てて私を見た。
「はーい、往生際よくお皿出して下さいね」
れんれんは何故か楽しそう。
委員長の目からスッ……と光が消えていく。
そして大盛りご飯に、たっぷりと大盛りカレーが掛けられる。
「……おい、量おかしくないか?」
委員長が皿を見つめたまま、静かに言う。
「気のせいですよ」
れんれんはにこやかに返す。
「いやどう見ても三人前——」
「バイトで疲れているでしょう?」
「はい」
即答だった。
ノゾミくんが腹を抱えて笑う。
「ふははは!委員長、覚悟を決めろ!」
「ノゾミくんも同じ量ですよ」
「なに!?」
自分の皿を見たノゾミくんの顔が、一瞬で固まる。
「この量は過酷……いや、臣下も食べるなら主君の俺が食べないでどうするんだ……!」
ノゾミくんが震える声で言う。
「これは……なんか甘くないか?コクがあるというか……」
「それはキャラメルだよ」
「なんてモン入れてんだ!」
「でも、意外と合うでしょ?」
凛音が当然のように言う。
「……まぁ、少し甘めのカレーって思ったら意外といけるか?」
委員長はそう言いながら、もう一口食べた。
私のこれは、なんだろう?
もちもちしていて、ほのかに甘い……
「あ、お餅だ!」
たしか、賞味期限が近いからってれんれんが入れていたなー。
ノゾミくんが入れた大当たりの焼き肉用の牛肉が出てきた時は、みんな真剣になってお肉を探し始めた。
凛音は私が入れたうどんのせいで、カレーうどんになっている。ご飯も食べれてうどんも食べれる、一石二鳥だね!
「カレーうどんは明日作ろうと思っていたんですけど、先越されちゃいましたね」
「意外にヤベーモン入ってなくて良かったわ」
絶対に食べ切れないと思ったカレーは、ものの三十分で完食。
空のお鍋を覗き込んで、余った冷凍うどんと交互に見る。
残ったらカレーうどん作戦はできなかったけど、美味しそうに食べてくれて嬉しかった!
「まーね。食べるのも好きだし」
凛音はダンボールから取り出したミキサーを台所へ持って行くと、スマホのレシピを頼りにガトーショコラ作りを始めた。
「では、僕達は勉強会始めましょうか」
「ふっ、良いだろう!」
「早く終わらせて、お菓子食べたい」
私はちょっと名残惜しそうに台所を振り返りながら、れんれんの方へ戻る。
リビングの座卓でお勉強。
机いっぱいにノートやら教科書やらプリントやらが散らばり、私はすでに諦めモードだ。
「……まだ何も始まってませんよ」
時計の針をぼーっと眺めていると、れんれんが静かにツッコむ。
「いや、気持ちがもう無理」
「主君として情けないぞ琴葉くん!」
ノゾミくんがビシッと指を差してくる。
「いや、よく考えて。数学なんか社会に出ても使わないじゃん。算数さえ分かれば生きていけるよ。Xを求めよなんか使わないよ」
「テストには使いますよ」
「うむ!」
「……えー、数字を文字にして考えるのって、頭こんがらがるじゃん」
ノゾミくんはペンを握ったまま、目をしばたたかせる。
「琴葉くん、覚悟を決めるんだ!この数学の山を征服するのだ!我が臣下として情けないぞ!」
「ノゾミくんは中間試験の数学のテスト何点だったの?」
「我が成績は下から二十二番目だ!」
「よっしゃ、勝った!」
嬉しくてガッツポーズする。
「私は下から二十四番目だよ!」
「な、なん……だと!?」
ノゾミくんがありえない!といったような表情で、ズザザと机から距離を取る。
「俺より、点数が良いのか……!?」
「崇めよ崇めよ。ノゾミくんより私の方が頭が良いのだ!」
「琴葉ちゃん、凄いね。天才だね」
パチパチと笑顔で手を叩くれんれんを見て、ノゾミくんは面白くないのか分かりやすく不貞腐れている。
それから二時間ほどの勉強会を終え、昼ご飯を済ませた後、私たちはスーパーへ向かった。
夕方の店内は、仕事帰りの人でごった煮返していた。
「今日の夜ご飯は何にしましょうか」
白衣姿でレジカゴを持つれんれんに、周りのおばさん達が「ドラマの撮影!?」ってギョッとしている。
「ルー余ってたから、カレーにしようよ」
「いや、ハンバーグだ!」
「ウチ、焼き鮭希望」
「見事にバラバラですね……」
「れんれん、飴買って」
凛音がれんれんの肘を引く。
「まだストックがあったはずですが……」
「あれはレモンといちご。ぶどうとメロン欲しい」
「駄目です」
「れんれんのケチ〜」
二人のやりとりを眺めていたら、ノゾミくんがクルッとこっちを振り向いた。
「琴葉くん!今のうちに欲しい物をカゴに入れるぞ!」
「そうだね!入れたもん勝ちだよね!」
二人がガッと手を組んで、材料を奪い合うようにカゴへ入れていく。
お肉、じゃがいも、キャベツ、キャラメル、牛乳、卵、パイ生地、などなど。
「二人共、落ち着いてください」
「買い物って楽しいね〜」
「うむ、共同戦線だな!」
ノゾミくんは真剣な顔でカゴの中を見つめる。
最終的に、全員の分の材料が揃い、カゴはパンパンになる。
「よし、これで夜ご飯とお菓子は完璧だ!」
「れんれん、支払いよろしく」
「分かりました」
れんれんは落ち着いた手つきでレジを済ませ、みんなの荷物をまとめた。
「凄いな、六時ぴったりに用意できるなんて……」
委員長が少し驚いたようにテーブルのお鍋を覗き込む。
「最近はドタバタしていましたもんね」
コップを並べてくれたれんれんも、どこか満足げだ。
「はーい、じゃあカレーは私がよそうから、お皿出してね〜!」
私は立ち上がって、お玉でカレーをぐるぐるとかき混ぜる。
「これ、何カレーなんだ?」
「よくぞ聞いてくれたな委員長!これは闇カレーだ」
「闇」
委員長が呟きながら、お鍋に視線が移る。
出しかけていたお皿を引っ込める。
「スーパーでどの食材を買うのかケンカになって、それなら全部入れちゃえってことで....」
凛音の申し訳ない気持ちの解釈に、委員長がゴクリと喉を鳴らした。
「一応聞いておくが、変な物は入ってないよな?」
「入ってないよ」
「隠し味に凛音ちゃんが何か入れていましたね」
「飴は駄目って琴葉に止められたからね」
「飴意外なら大丈夫か。琴葉、ナイス!」
委員長は親指を立てて私を見た。
「はーい、往生際よくお皿出して下さいね」
れんれんは何故か楽しそう。
委員長の目からスッ……と光が消えていく。
そして大盛りご飯に、たっぷりと大盛りカレーが掛けられる。
「……おい、量おかしくないか?」
委員長が皿を見つめたまま、静かに言う。
「気のせいですよ」
れんれんはにこやかに返す。
「いやどう見ても三人前——」
「バイトで疲れているでしょう?」
「はい」
即答だった。
ノゾミくんが腹を抱えて笑う。
「ふははは!委員長、覚悟を決めろ!」
「ノゾミくんも同じ量ですよ」
「なに!?」
自分の皿を見たノゾミくんの顔が、一瞬で固まる。
「この量は過酷……いや、臣下も食べるなら主君の俺が食べないでどうするんだ……!」
ノゾミくんが震える声で言う。
「これは……なんか甘くないか?コクがあるというか……」
「それはキャラメルだよ」
「なんてモン入れてんだ!」
「でも、意外と合うでしょ?」
凛音が当然のように言う。
「……まぁ、少し甘めのカレーって思ったら意外といけるか?」
委員長はそう言いながら、もう一口食べた。
私のこれは、なんだろう?
もちもちしていて、ほのかに甘い……
「あ、お餅だ!」
たしか、賞味期限が近いからってれんれんが入れていたなー。
ノゾミくんが入れた大当たりの焼き肉用の牛肉が出てきた時は、みんな真剣になってお肉を探し始めた。
凛音は私が入れたうどんのせいで、カレーうどんになっている。ご飯も食べれてうどんも食べれる、一石二鳥だね!
「カレーうどんは明日作ろうと思っていたんですけど、先越されちゃいましたね」
「意外にヤベーモン入ってなくて良かったわ」
絶対に食べ切れないと思ったカレーは、ものの三十分で完食。
空のお鍋を覗き込んで、余った冷凍うどんと交互に見る。
残ったらカレーうどん作戦はできなかったけど、美味しそうに食べてくれて嬉しかった!


