銀杏並木の毒舌な隣人たち(祝祭の檻編)
 その瞳は、誰にも負けない、強い意志の光が宿っている。

「いいじゃない麻美子。何をそんなに怯えてるの? ご祝儀の三万円だって、安いもんじゃない。これは、普段は縁のない高級ホテルの空気を吸って、最高の食事を味わうための『入場料』よ。 見栄を張って買ったこのドレスだって、いつかあなたがもっと強くなった時、『あの時の私は、必死に自分を守ろうとして戦っていたんだな』って愛おしく振り返るための勲章になるわ」

 鏡の中の麻美子は、頬に触れるように手を伸ばしてきた。

「後輩の幸せを妬む必要なんてないんだって、ほら、彼女はこれから、誰かのために自分を削る日々に入るんだもの。あなたのお母さんを思い出してみなよ。家族を背負うのは、自由を捨てる以上の覚悟がいることよ。彼女を応援してあげなさい。大変な道を選んだんだから、 あなたはまだ、自分のためにその命を、一分一秒、贅沢に使える。 ――さあ、完璧な顔で笑いなさい。今日は、高いメシを食って、誰よりも自由に、この『一人の時間』を謳歌してやるのよ」

 麻美子は鏡の中の自分に手を伸ばし、お互いを讃えるように手を合わしていた。

 会場の席に着き、乾杯の挨拶聴きながら、微笑みを浮かべていた。

 会場の大きなガラス窓からは、皮肉ながらも銀杏並木が広がっている。

(カラスも金魚も、勝手なことばかり言って……)と苦笑いしながら、自分のドレスの裾を少しだけ誇らしく整える。

(勝手に幸せになりなさいよ。私はもう少し、この『完璧な皮』を着こなして、あんたたちが羨むくらいの『完璧な孤独』を楽しんでやるわ!)

「乾杯」と声がかかると、この日一番の祝福の掛け声が、自分に向けられたように感じていた。

 終わり
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