せっかく凡庸な彼女が自ら身を引いてくれたのに、天才魔術士はそれを許すつもりがないようです
ようやく本日の授業を全て終えた。
(それにしても、今日は疲れたな)
非常勤講師を始めて今日が1番疲れたかもしれない。
教室を片付けて職員室へ戻る途中、窓に目をやった。
太陽はだいぶ傾き始めていて、空はオレンジに染まるにはまだ早いが、すでに黄色がかってきてはいる。
セシルはとうに下校し、家に着いているはずだ。
緊張しながらジェシカの帰りを待っているのだろうか。
「お疲れ様です」
職員室に戻るや否や、ロペス先生が声をかけてきた。
「少しお時間いただけますか?」
「ええ、構いませんよ」
ハンスのほうも、ロペス先生が加害児童たちにどのような指導をしたのか、訊きたいと思っていた。
「本日はありがとうございました。ここ最近、セシル・ウォルコットさんがイジメられていることは気づいていましたが、証拠がなくて。疑わしいというだけで児童たちを問い詰めることもできず、どうしたものかと悩んでいたんです」
「彼らは自分たちがやったことを反省していましたか?」
「ええ、泣きながらこれまでしてきたことを全て話してくれましたし、セシルさんにもきちんと謝ってくれました」
「これでイジメは止まりそうですか?」
ロペス先生は眉根を寄せた。
「……今日指導した子たちはもうやらないと思うのですが、」
「別の児童が?」
「その可能性を危惧しています」
「どうしてでしょう? セシルくんに、何かイジメのターゲットにされやすい要因でもあるのでしょうか?」
訊ねながら、まさかと思う。
セシルは学年が上がれば、いずれは学級委員や生徒会役員を任されそうなタイプだ。
かつての自分のように。
ロペス先生は、躊躇いがちに答える。
「……彼、優秀過ぎるんですよ」